Mr.Childrenが本日5月10日にメジャーデビュー31周年を迎えた。1992年のデビュー以降、数多くのミリオンセラーを生み、国民的バンドとして絶大な支持を集める彼ら。昨年はデビュー30周年を記念した全国ドーム&スタジアムツアーを開催、パンデミック後では国内最大規模となる約60万人を動員したことは記憶に新しい。
そこで当ブログでは、運営主の山田と同じ1998年(平成10年)生まれであり、以前よりTwitterを通して交流のある“やたろ”さんを迎えて対談を実施。この対談は当初バンドのデビュー30周年を記念して昨年末に行われる予定だったが、山田のコロナウィルス感染を受けて急遽延期に。それから少し間が空き、今年の3月下旬にようやく企画が実現した。念願の対談ではミスチルの音楽との出会いはもちろん、お互いが好きなアルバム/楽曲や、バンドから受けた影響など様々なトークを展開。リアルタイムで“ミスチル現象”を知らない2人がそれぞれ抱く“ミスチル観”が垣間見える対談となっている。
山田くん:右
やたろ:左
今日はよろしくお願いします。やたろさんとは今日が初めましてですもんね
よろしくお願いします。そうですね、Twitterでお互いフォローしてから7年近く経ってますけど、お会いするのは今日が初めてで。たくさんいらっしゃるフォロワーさんの中から僕を選んでいただけて……(笑)
いえいえ(笑)。今回の対談相手に誰を呼ぼうかと思ったときに、真っ先に思い浮かんだのがやたろさんで。Twitterでの繋がりが長いというのはもちろんですが、何よりも個人的にやたろさんの音楽との接し方が好きなんですよ
光栄です。めちゃくちゃ嬉しいです!
それで今回はMr.Children(以下、ミスチル)のことについて話すので、これはやたろさんしかいないと思って、お声掛けさせていただきました!
ありがとうございます。まずは「夢番地日記」開設7周年、直前ではありますけどおめでとうございます!
いえいえ、ありがとうございます……。気づいたら7年経っていて、投稿本数が年月に伴ってないのがお恥ずかしいんですけど(笑)
そのぶん中身がすごい濃密ですから!
とんでもございません(笑)。では、さっそく音楽の話をしていきたいんですけど、やたろさんは普段どんな音楽を聴かれるのでしょうか
はい、ジャンルとしてはJ-POPと洋楽のポップス、ロックとかですね
かなり幅広く聴かれてる印象ですし、最近さらにその幅も拡がり続けてますよね
そうですね。幼少期とか青年期にどこかで耳にして良いなと思った音楽をもう一度、しっかり作品として聴くことで、そのジャンルがもっと好きになっていくという拡がり方が結構ありますね
昔に耳にしていた音楽を改めて聴き返そうとしたきっかけってあったんですか?
最初としては2011年頃ですから中学1年生のときに、これまで聴いてきた音楽を振り返りたいなと突然思って(笑)。CDを借りたりして聴き始めたところ、新しく出会う音楽の方にすごく感動してしまって、そこから無限に好きな音楽が拡がり続けてる感じです
では、2011年頃から能動的に音楽に触れるようになったということなんですね。で、今回なんでやたろさんをお呼びしたのかって言うと、やたろさんのように様々な音楽を聴いてる方が今も変わらずミスチルを聴き続けていることには意味があるんだろうなと思いまして。因みにやたろさんが最初にミスチルの音楽に触れたのっていつ頃なんでしょうか
僕の記憶ですと親が最初にカーステレオで流してたのが『四次元 Four Dimensions』で。あとは『しるし』、『GIFT』、『HANABI』とかのシングルも当時カーステレオで聴いてました。まだその時点ではハマってはいないんですけど
ハマってはいないけど、それがご自身の中で懐かしい音楽の記憶として残っていたってことですよね
まさに!そうですね(笑)
それで2011年をきっかけに能動的に音楽を聴き始めたとのことですが、ミスチルで言うとどうでしたか?
最初はさっき挙げたような懐かしい曲をメインで聴こうと思ってたんですけど、すぐハマってしまって、全アルバムを一気に揃えちゃいましたね(笑)
(笑)なかなかの量ですよね?
はい(笑)。あの頃はまだ『[(an imitation) blood orange]』が出てませんでしたから。僕が最初にミスチルを能動的に聴き始めた作品が、後追いですが2012年の春頃に聴いた『SUPERMARKET FANTASY』で。その時点では“まぁいいな”くらいだったんですけど、そのあとなぜか『SENSE』と、当時発売された“micro”(『Mr.Children 2001-2005 <micro>』)と“macro”(『Mr.Children 2005-2010 <macro>』)を手に取ってそこでハマりまして
なるほど。その時点だと『SENSE』がオリジナルアルバムとしては最新のものになりますもんね
あと、ちょっと余談にはなるんですけど同時期に音楽のレビューサイトというのを初めて知りまして。その当時一番好きだったコブクロのCD売上をネットで調べていたときにたまたま出てきたWebサイトで、結構辛口なんですけどコブクロのレビューが書かれてまして、他にもいろんなJ-POPミュージシャンのディスコグラフィーをたくさん載せていたので、それにも衝撃を受けましたね
それは個人ブログになるんですかね?
個人ブログですね。それがやがて自分でもブログを始めるひとつのきっかけになりました。そのときにミスチルの作品のレビューを見たのも、ミスチルにハマるきっかけのひとつだったのかなと、今になって思います
なるほど、ありがとうございます。ちょっと自分の話になってしまうんですけど、僕がミスチルを聴くようになったきっかけはもう完全に親の影響で。子どもの頃から当たり前のように家で流れてる音楽のひとつではあったんですけど、ミスチルの音楽を初めて意識して良いなと思ったのは『I ♥ U』とかでした。だから、時期的にはやたろさんとほぼ変わらないなぁと
ほんとに変わらないですね。小学1年生くらいだと思います。僕もその頃に初めて、音楽の良さに感動するという経験をしまして。まぁ、それはミスチルではないんですけど(笑)
因みになんですか?
Billy Joelの「Piano Man」と……
おぉ、名盤ですね。これはアルバムではなく楽曲の方ですかね
楽曲の方です。もちろん、アルバムも良いんですけどね。あとはスキマスイッチの「ボクノート」ですね。この2曲は当時狂ったようにリピートしてた記憶があって
「ボクノート」は“のび太の恐竜2006”(『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』)の主題歌でしたね。僕もこの曲が大好きで、初めて映画館で観た「ドラえもん」がこの作品でした(笑)
おぉ、一緒です。それこそ3年前には“新恐竜”(『映画ドラえもん のび太の新恐竜』)の主題歌をミスチルがやりましたもんね。あのとき久々に「ドラえもん」の映画を観たんですけど、にわかながらやっぱり「ドラえもん」好きだなぁと感じました
奇しくもどちらも恐竜物で。スキマスイッチもミスチルの影響を受けているっていう(笑)
たしかにそうですね、どちらもサポートのキーボーディストが浦清英さんで(笑)
やたろさんはミスチルのライブに行かれたことはあるんですか?
実はまだ一度もないんですよ。昨年“半世紀へのエントランス”(「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」)東京ドーム公演の配信を観て、初めてミスチルのアニバーサリーを祝えたという感慨はあったんですけど。次回のライブこそは生で!という思いがあります
僕は逆にその配信を観れてなくて、先日パッケージ化されたもので、初めて同公演の映像を観ることができました(笑)。そう言えばやたろさんは、あのときの配信を受けてライブレポートをブログで書かれていましたよね?
書きました(笑)
ああいう有観客と生配信のハイブリッド形式を取ってるライブの配信を観てレポートを書くって、相当の熱量がないとできないような気がしていて。やたろさんとしてはあのライブはどのようなものでしたか
そうですね……。あのライブのハイライトに「タガタメ」~「Documentary film」というのが挙がると思うんですけど、「タガタメ」の緊張感からの「Documentary film」でグッと引きつける感じが染みまして。本当に個人的な話になってしまうんですけど、昨年の夏頃は、今は亡くなってしまった祖母がちょうど体調を崩し始めたくらいの時期なんですよ。《君の笑顔にあと幾つ逢えるだろう》、《君が笑うと/泣きそうな僕を》とかの歌詞が自分の近況と相まって泣けてきてしまって。それもあって“これは文章にしたい”と思いブログに書きましたね
なるほど、もちろんライブレポートも読ませていただきましたが、素晴らしいレポートで……
ありがとうございます!あのツアーはアニバーサリーツアーですから特にレアな選曲があったというわけではないと思うんですけど、個人的にはライブの序盤で「Over」と「Any」を聴けたのも嬉しかったです。どっちも大好きな曲なので
そうですね、本当に素晴らしいライブで。次のミスチルのライブには行けるといいですね
ね、次こそは絶対にって感じです。僕の好きなスピッツと桑田さん(桑田佳祐)のライブには行けてるので、あとはミスチルだけっていうのがあるので
あ、スピッツのライブに行かれたことがあるんですね。いつのですか?
2021年のツアー(「SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 “NEW MIKKE”」)で初めて宮城まで遠征して観に行きました。それもとても良かったです
羨ましいです!スピッツのワンマンは行ったことないんですけど、2018年のエレカシ(エレファントカシマシ)とミスチルとスピッツの3マン(「30th ANNIVERSARY TOUR “THE FIGHTING MAN” SPECIAL ド・ド・ドーンと集結!!~夢の競演~」)でライブを拝見したことがあって
あ、そっか!行かれてましたね
運良くチケット取れまして(笑)。当たり前ですけど3バンドともめちゃくちゃ良いライブしてて
いいなぁ……。あのときミスチルのライブが「prologue」から「Everything(It's you)」の流れで始まったって聞いたんですけど
そうです!「prologue」が流れ始めたときに会場のミスチルファンがかなりザワついたんですよ(笑)。多分、彼らがライブのSEで「prologue」を使用したのって後にも先にもこのライブしかないんじゃないかな
僕も聞いたことないです。いいなぁ……
そう言えば今回の対談にあたってやたろさんがSpotifyでプレイリストを組んでくださったと聞いたんですけど(笑)
はい!こちらになります。“やたろのミスチル史”になります、ぜひご覧ください。これは時系列で知った順ですね。その中でも印象的で思い出が蘇ってくる曲をリストにしております
あぁ、いろいろバックグラウンドが見えてきますね……。あ、この辺は!(『深海』収録曲「Dive」を指差しながら)
はい、病んでたときです(笑)
一瞬でわかりますね(笑)
この辺はもう何回聴いたんだろうって思います。中学2年生の僕の心には突き刺さりましたね
この辺はもうミスチルにどっぷりって感じなんですね。先ほどは“micro”と“macro”を手に取ってから、一気にミスチルにハマったと聞きましたが、きっかけになった楽曲とかありますか
えっと……なんだったんだろ……(プレイリストを見ながら)。あ、「擬態」かもです!
うわっ、すごいわかります
わかってくださいますか。ちょうど中2の頃に『SENSE』を借りてきて、一発でハマりました。特に「擬態」が染みましたね。当時は勉強と部活の両立が大変で……それでストレスと疲労が積み重なってた時期で。身体を壊しそうなところまでいってたんですけど、そのときに行きの電車で「擬態」を聴いたら泣けてきちゃって。音楽を聴いて涙が出るってあれが初めてだった気がするんですけど、それもあってこの曲は特別ですね
そうだったんですね
そのあとは、先ほど話したレビューサイトとかを見て、どうやらミスチルの『深海』というアルバムがすごいらしいと知りまして(笑)。それで当時ブックオフでアルバムを買ってきまして、そこで初めて聴いた「名もなき詩」に衝撃を受けて、そのまま『深海』にドハマりしていきましたね
中学2年生の頃のご自身を『深海』に重ねながら聴かれてた感じですか
まさにそうですね。《何の意味も 何の価値もないさ》って「シーラカンス」で歌われてますけど、本当にあのときは同じこと思ってましたね。染みたというか……もっと言えば“狂った”というか(笑)
いやぁ……僕もその辺の聴き方はまったく同じですね。桜井和寿(Vo)という人間の浮き沈みに自分自身を投影させるという聴き方。だから極論ですけど、ミスチルのディスコグラフィーは自分の精神状態の変遷そのものなんですよ。“今僕は『深海』だなぁ”とか“あぁ『深海』を抜けてやっと『DISCOVERY』に行けたのかなぁ”とか本気で思ってましたもん(笑)
ちょっと何かを見つけられたかな……みたいね(笑)。めちゃくちゃわかります。そう思うと他の音楽でも自分の心境と重ねて聴くようになったきっかけはミスチルなのかもしれないです
やたろさんはそれが中2の頃とおっしゃってましたけど、僕がミスチルの音楽に自分を投影するようになったのってかなり遅くて、高校に入ってからなんですよ。あの頃は今以上に暗い人間でしたし、学校という空間がとにかく肌に合わなくて……。ああいう塞ぎ込んで生きてた時期に一番聴いてたのがミスチルであり、『深海』で。そのせいか未だにあのアルバム聴けませんもん僕(笑)
え、そうなんですね
いや、まぁ……聴けはするんですけど、どうしてもあの頃の鬱々とした感情に引きずられちゃうので。でも、当時はあの作品を通ったことでミスチルの音楽にいっそう惹かれていきました。あ、そうそう、僕はずっとMr.Childrenというバンドを勘違いしながら生きてた節があるんですよ
と言いますと……?
幼い頃からずっとミスチルって底抜けに明るいバンドだと思ってたんです。「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」とか「エソラ」とかを聴いても、歌詞の意味なんか当時はわかりませんから、とにかくキャッチーなサウンドでキラキラしてて、“夢”とか“希望”を歌ってるというイメージで。それが僕の中での“ミスチル像”だったんですよ。桜井さんもニコニコしてますし(笑)
2000年代半ば以降はたしかにそうですね
でも『深海』というアルバムと向き合ったときに自分がミスチルを見誤ってたことに気づいたんです。ただただに夢や希望を歌ってきた明るいバンドでは全然なくて、寧ろミスチルの本質は桜井さんの斜に構えた恋愛観とか、絶望の描き方とか、そういうところなのかもって。長く勘違いしてたぶん、それに気づけたときのハマり具合はすごかったです。やたろさんの話を聞いていると、ミスチルを聴き始めてから『深海』に触れたのがかなり早いですよね?
そうですね、かなり最初の方です。レビューサイトの影響もあったんですけど、当時の自分が欲していた暗さとか尖ったロック性も含めてガッツリとハマりましたね
なるほど。僕らは1998年生まれですけど、意識的にミスチルを聴くようになった頃にはミスチルってもう安定してたじゃないですか。過去に『深海』という衝撃的な作品を出して、翌年に活動休止して、スキャンダルもあって……みたいな激動の時期を、すべて後追いで知った世代だと思うんです。これ当時をタイムリーで見ていたファンはどういう気持ちだったんだろうってめちゃくちゃ考えますね
あぁ、たしかにそうですね
こればかりは親を憎むしかないというか、どうしようもないので(笑)。90年代半ばから徐々に精神的に沈んでいくミスチルをどう思ってたんだろうって
確かにそうですね。当時はスキャンダルもありましたし、セールスも『DISCOVERY』以降は下がって、『Q』なんかはミリオン割っちゃいましたからね……。前にその当時の2ちゃんねるの書き込みを見たんですけど、“ミスチル終わったな”って声が多いんですよ。“「口笛」も昔ほどじゃねぇだろ”って書き込みを見て驚いたんですけど
えええ、そうなんですね。「口笛」なんか2014年のFC会員限定ツアー(「Mr.Children FATHER&MOTHER 21周年ファンクラブツアー」)の聴きたい曲アンケートで1位だったのに(笑)
今でこそそうなんですけど、当時はそういう声も多かったんだなと見て思いました
アルバム『Q』も今で言うとマニアなら一推しくらいの作品ですもんね
そう、僕も大名盤だと思ってます。僕この作品もミスチルの中では割と初期に聴いたんですよ。『深海』と『BOLERO』を入手して、その次に聴いたのが『Q』だったんです
濃いですね……
「口笛」も良かったんですけど、当時このアルバムで他にハマったのが「友とコーヒーと嘘と胃袋」で
濃いですね(笑)!
自分でもなんでこんなハマり方するんだとは思ったんですけど不思議と。だから自分の中では最初から『Q』は名盤という認識なんですよね
うんうん。というかミスチルはやっぱアルバムの話になりますね。やたろさんはミスチルをきっかけに音楽と自分を重ねるようになったということでしたけど、それで言うと僕はアルバムのトータリティーというものを意識するようになったのはミスチルがきっかけかもです
まったく一緒です!
あ、ほんとですか。それまではアルバムって単なる作品集くらいの感覚だったんですけど、ミスチルの作品をきっかけに“アルバムで聴く”ということに自分なりに意義とか価値を見いだすようになったというか。今でこそいろんなミュージシャンの作品を聴くようになりましたけど、個人的にミスチルは特に“アルバム単位で語りたいバンド”なんですよね
そう!ミスチルを一番的確に表した言葉かもしれませんね、それ。本当にどれも似たアルバムがありませんし、バラエティー豊かですし
では、せっかくアルバムの話になったので、やたろさんが特に好きなアルバムとかってうかがってもいいですか
はい、これはもう『REFLECTION{Naked}』なんですよ。あれは歴代の音楽作品の中で一番リリースを楽しみにしてたアルバムなんです。アルバム発売が2月に発表されたのに、6月リリースなの!? まだ先じゃんってなって
あぁ、そうでしたね
あとは映画(2015年2月公開のライブ・ドキュメンタリー映画『Mr.Children REFLECTION』)を観たときの衝撃と、シングル曲で言うと「REM」、「足音 ~Be Strong」辺りからアルバムの片鱗が見えてきて期待感がどんどん上がっていきまして
当時のプロモーションの力量もすごかったですよね
すごかったです。“壁チル”とか懐かしい単語を思い出しましたけど(笑)
ありましたね!壁面のイヤホンジャックにイヤホン繋いで試聴できるやつ(笑)
そうそう。それでフラゲ日って大体は昼頃から店頭にCDが並び始めるじゃないですか。でも当時は大宮のHMVで朝から待機してたんです。近くのカフェで勉強しながら“その時”を待ち続けて、昼にHMVに駆け込んだら店内でミスチルの新曲が流れていてそれにもまたワクワク感が存分に高まりました。それでレジでデッカイ箱を10,000円出して買って(笑)
高かったし、デカかったですよね(笑)
高かったですね(笑)。でも今はサブスクで聴けちゃうという。今でも後悔ない買い物のひとつです。それで家に帰ってUSBをノートパソコンに挿して、1曲目「fantasy」のイントロが流れた瞬間もう“これはヤられた”って感じで
やたろさんはご自身のブログのタイトルが「fantasy」の歌詞からきてますもんね
そうです!ミスチルで一番好きな曲が「fantasy」なんです。もちろんアルバムは23曲全部良かったし、我を忘れて聴き入りましたね
先ほどの話にも通じますけど「fantasy」ってちゃんと聴かないと勘違いする曲だと思ってて。この曲は発売未定だった時期にCMソング(「ニューBMW アクティブ ツアラー」TVCM「青空。家族。BMW。」)に起用されてましたけど、CMでサビの《「僕らは愛し合い 幸せを分かち合い/歪(いびつ)で大きな隔たりも越えて行ける」》という部分だけ聴いたらすごい爽やかで明るい曲だと思うじゃないですか。でもそのあとにそれが“願い”であり“誓い”であり“皮肉”だと歌っていて。この落とし方こそが桜井さんだし、上っ面だけ見てるとこの曲の本質を見誤るんですよね
そうそう、その先なんですよね。これはもう我々現代人にとってのテーマソングなんじゃないかという感覚ですね。
因みに山田くんのミスチルで一番好きなアルバム、楽曲をそれぞれお聞きしたいです
む、難しい質問ですね……。待って、なんでこんな絶対来るであろう質問の答えを考えてなかったんだろ(笑)
いやぁ、なんかすみません(笑)
いえいえ。うーん……(長ーい沈黙)
難しいですよね……
まぁ、でもよく自分で言ってるのはアルバムだと『BOLERO』ですね。基本暗いミスチルが好きなんですけど『深海』だと暗すぎるので(笑)。ほぼ同時期に制作されたアルバムではあるんですけど
どういったところがお好きなんですか
そうですね……。『深海』ってひたすら沈んでいくアルバムだけど、『BOLERO』はそんな絶望の中でも手を伸ばそうとしてる作品だと思ってて、その姿勢が好きなんです。あと本作の中で影響を受けた曲が多いっていうのもあります。特に「【es】~ Theme of es ~」と「ALIVE」なんですけど
おぉ、哲学的というかミスチルの真骨頂ですね
そうなんです。「ALIVE」はあのアルバムの核だと思いますし、僕自身の人生観もすごい影響を受けました。アルバムの話に戻りますけど『BOLERO』って収録曲の年代がごちゃごちゃだからか“作品集”って評価をされがちなイメージがあって。でも、僕の中では『BOLERO』ってオリジナルアルバムとして完成しまくってるなと思うんです
わかります
「Tomorrow never knows(remix)」で終わるのも完璧というか憎いんですよ。「ボレロ」で終わらせとけばええやんって一瞬思うんですけど、そうしないところがいい。こういう果てしない闇の向こうに手を伸ばそうとする姿勢……桜井さんが臆面もなく自分が精神的に堕落していく姿を見せてる感じとか。当時のスキャンダルも含めて、ああいう絶望の淵でもがき苦しんでいる姿というのは、見る人によっては惨めだったり無様だったりするんでしょうけど、僕は良くも悪くも人間臭くて好きなんですよね
あぁ、納得できる部分がすごいあります、それ
という感じで好きなアルバムは『BOLERO』なんですけど、楽曲単体だと……まぁ「Any」とかになりますかね
わぁ、やっぱり。前にも語っておられてましたもんね。名曲ですね
そうなんです、高校時代からずっとこれで(笑)。さっきも少し話しましたけど、とにかく通ってた高校が嫌いというか肌に合わなくて、ずっとしんどかったんです。高2の頃に修学旅行がありまして、当日ものすごい憂鬱な気分で集合場所に向かっていて。そんな行きの電車の中でウォークマンから流れてきたのが「Any」だったんですけど、これまでなんの気なしに聴いてた歌詞がえらく刺さってしまって。《今 僕のいる場所が 望んだものと違っても/悪くはない きっと答えは一つじゃない》という歌詞に本当に救われましたね。みなさん同じこと言うでしょうけど(笑)
僕もまさにそこが好きですね
高校3年間、卒業から6年経った今でもいい思い出はないんですけど、「Any」を心のド真ん中に据えたことで、歪でしたけどなんとか乗り越えることができましたね。まぁ、でもこの曲は主観抜きでミスチルというバンドにとってもデカイ曲だと思うんですよ
ですよね
もちろん発表直後の桜井さんの病気とか大きいトピックスもあるんですけど、「Any」のAメロの歌詞が素晴らしくて。《上辺ばかりを撫で回されて/急にすべてに嫌気がさした僕は/僕の中に潜んだ暗闇を/無理やりほじくり出してもがいてたようだ》って、これまさに“ミスチル現象”で売れに売れ切って『深海』で精神的に堕ちていった桜井さん自身じゃないですか。そこからのサビなんかは、長い自分探しを経て辿り着いた桜井さんなりの答えだと思いますし
あぁ、たしかに。あの頃は『IT'S A WONDERFUL WORLD』で小林さん(小林武史)と改めて一緒にポップな作品を作っていこうってなって、ちょうど『深海』を抜けた時期だと思うんですけど、そのタイミングで「Any」っていうのも山田くんの話を聞いて合点がいきました
あとは……最近の曲で言うとアルバム『SOUNDTRACKS』に収録されている「Brand new planet」がベストソングで。個人的にはここ18年間のミスチル作品の中で断トツなんですよ。いい曲ですよね?
本当にいい曲だと思います(笑)
正直なところ、僕はずっとミスチルをリアルタイムで聴いてても『REFLECTION』とか『重力と呼吸』とかもっと前のアルバム作品も、もちろん聴いてはいたんですけど、そんな現在進行形のミスチルを横目に90年代後期の作品をメインで聴いてるようなリスナーだったんです。懐古厨とかではないんですけど
ご自身のモードとは合わなかったと
まさにそうです。でも、この「Brand new planet」には一発でヤられてしまって。子どもの頃から十何年と聴き続けてるバンドの新曲にここまで感動できるんだって思いましたね。それからは現在のミスチルもちゃんと見なきゃなって思うようになりましたし、そういうマインドで30周年のツアーを迎えることができたので良かったです
おぉ、すごいいいタイミングで。ドーム公演の1曲目でしたもんね
そうなんですよ、演出も含めてあの始まりはヤバかったです
今ちょうど就職活動の最中なんですけど、《何処かでまた迷うだろう/でも今なら遅くはない》ってフレーズを大ベテランのミスチルが歌ってくれてるのが……きっと自分も大丈夫なんだって思えて染みました
うんうん。僕はサビの象徴的な《新しい「欲しい」まで もうすぐ》って歌詞もすごい好きで。何か欲しいものを明確にするわけではなくて、うまく言えないんですけど“欲しい”という自分を衝き動かす感情や欲求そのものを歌ってるわけじゃないですか。その「欲しい」すらも欲し続けるという……すみません、うまく言えませんでした(笑)
いえいえ、わかる気がします
最近のミスチルの音楽は誰かの生活に奉仕するための音楽なんですよ。『Atomic Heart』から『深海』、『BOLERO』……と、桜井和寿の自分探しの旅を見せながら進んできたミスチルが『重力と呼吸』辺りから明確に変わり始めた感じがして。あくまで歌の主人公は桜井和寿ではなく聴いてるリスナーという。『SOUNDTRACKS』はそのフェーズのわかりやすい到達点ですよね
そうですね
それを踏まえると「Brand new planet」もきっと誰かの人生に向けて作られた楽曲のひとつで。でも、桜井さんが当時雑誌(「MUSICA(ムジカ)2021年1月号 Vol.165」)のインタビューでこの曲について、これはロンドンへ向かう自分たちのテーマソングでもあったんじゃないかとMVを撮ったときに初めて気づいたと発言していて。当初はモチーフが自分とは異なる曲として制作されたこの曲が、こういう桜井さんの心境の変化もありつつ、ドームの1曲目として鳴っていたのが感慨深くて
あぁ『SOUNDTRACKS』を引っ提げたツアーはコロナの影響で開催されませんでしたし、B'zとの対バン(「B'z presents UNITE #01」)ではやってましたけど、大多数のファンの方はこのドームで初めてライブで「Brand new planet」を聴けたわけですもんね
そうですね、あのときドームで聴いた「Brand new planet」の主人公は間違いなくミスチル自身だと思いましたね、ホントに。桜井さんの歌詞の書き方が『重力と呼吸』から変わったような気が個人的にはしてるので
たしかにそうですね。それで言うと『REFLECTION』は己の欲望とか自分を衝き動かすエネルギー、原動力のようなものを感じたんですけど、『重力と呼吸』ってサウンド面では引き続きそうなんだけど、歌詞で言うと「Your Song」とか特に誰かの人生に向けた側面が強くなってるなと思いますね
今も現在進行形で変わり続けるミスチルって本当にすごいなぁと思いますよね
もう安定したかと思いきや、まだまだ攻めるっていう(笑)。ここ数年ですらコロナでネガティブモードになってたバンドが、30周年のツアーに向けて士気を高めていった感じとか、そこにも変化を見ることができたのが嬉しかったです
そうですね、ここからミスチルがどう進んでいくのか楽しみです。やたろさんとこうやってお会いして話せたのも新鮮で楽しかったです。本日はどうもありがとうございました
いえいえ、こちらこそです!呼んでいただけて嬉しかったです。ありがとうございました
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