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デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズが8月1日にプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』をリリースした。今作は20年前にリリースされた20周年のベスト盤『海のYeah!!』の続編とも呼べる待望のベスト盤であり、1997年〜2018年までに発表された楽曲の中から厳選された32曲(完全生産限定盤では33曲)が収録されている。

ここ20年でリリースされたオリジナルアルバムというと彼らが商業的に低迷していた時期を象徴するハードロックやプログレを基調としたアルバム『さくら』(1998)、全30曲という規格外なボリュームでパンチを効かせた2枚組のアルバム『キラーストリート』(2005)、無期限活動休止からの復活で開拓した大衆音楽の境地とも呼べる『葡萄』(2015)といったこの3枚。オリジナルアルバム12枚分を網羅していた前作『海のYeah!!』に比べるとサザンとしての密度の違いが歴然としてくるが、今回のプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』も負けず劣らずの画期的な名盤だと言いたい。何人ものプロの音楽評論家の方々が今作に対する評価を下し、何人ものファンの方がブログに感想を書き、サザンの公式サイトまでもが全曲解説を掲載した今、この僕が今作に対して意見を述べる事に何の意味も価値もない気がしなくも無いが、今作が2枚組であることからDisc-1の「Daddy side」とDisc-2の「Mommy side」に分けてレビューをしていきたいと思う。あとCDレビューは1年ぶりくらいで全く慣れてないので多少の読み難さは大目に見て頂きたいです。はい。


DISC-1
“Daddy” side 
まずイントロも無く一番最初に飛び込んでくるのが桑田佳祐の《風に戸惑う弱気な僕 通りすがるあの日の幻影 / 本当は見た目以上 涙もろい過去がある》という独白のような静けさを持ち合わせたこの歌い出し。40年のキャリアで最大の売り上げを記録した「TSUNAMI」(2000)で『海のOh, Yeah!!』は幕を開ける。2011年に発生した東日本大震災で東北地方が津波の災害を受けたことで桑田佳祐は敢えてこの曲を歌わないという事が何かのメッセージになるのではないかと考え、自らへの戒めとしてこの曲をライブで披露せず現在に至る。そんな「TSUNAMI」に引っ張られるかのようにこの1枚には「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」(1998)や「BLUE HEAVEN」(1997)、「SEA SIDE WOMAN BLUES」(1997)と言った『さくら』時期の陰りのあるラヴソングが収録されているのだが、一方で「イエローマン〜星の王子様〜」(1999)や「01MESSENGER〜電子狂の詩〜」(1999)と言ったこれまた『さくら』時期を象徴するデジタルロックサウンドが強い楽曲も収録されている。その他にもSAUDADE〜真冬の蜃気楼〜」(1998)や「私の世紀末カルテ」(1998)、原由子がボーカルを務めた「唐人物語 (ラシャメンのうた)」(1998)といった正に40代という壮年期真っ只中に桑田佳祐が抱えていた厭世観がモロに反映された楽曲が中心に収録されており、サザンのパブリックイメージでもある夏だ!海だ!を真っ向から外している印象をこの「Daddy side」からは受ける。無論それはサザンが97年〜99年に渡ってそう言った作風の楽曲を意図的に創り続けた結果なのだが。

勿論「Daddy side」が終始暗いわけではない。ライブで盛り上がる事を想定して制作された(イエローマンもそうだけど…)「HOTEL PACIFIC」(2000)やこれこそ夏だ!海だ!の「涙の海で抱かれたい〜SEA OF LOVE〜」(2003)、「OH!! SUMMER QUEEN〜夏の女王様〜」(2008)といったキラーチューンも挟みつつ、別れを歌ったミディアムテンポの春ソング「彩〜Aja〜」(2004)や切ない恋模様を描いたクリスマスソング「LONELY WOMAN」(2004)も加えて、夏うた以外もバッチリと熟すサザンを見る事ができる。「湘南SEPTEMBER」が収録されてたら四季を網羅できたのかなとか思ったり。 

そして個人的に物凄くお気に入りなのが「Daddy side」の最後が「限りなき永遠の愛」(2005)〜「素敵な夢を叶えましょう」(1998)で締め括られる所である。もうここね、完璧。「限りなき永遠の愛」は『キラーストリート』Disc.1の最後を、「素敵な夢を叶えましょう」は『さくら』の最後を飾っている。だからこの『海のOh, Yeah!!』ではDisc.1にしてエンドロールが2つ続いているような贅沢な感覚に襲われる。全体を通して薄暗いトーンの「Daddy side」が「限りなき永遠の愛」と「素敵な夢を叶えましょう」を踏襲する事でオリジナルアルバム宛らのエンディングを迎えられていると言っても過言ではないだろう。Disc.1「Daddy side」だけでサザンオールスターズというバンドが持つ音楽の振り幅を存分に堪能できる。その点では前作『海のYeah!!』に勝る今作の強みだと僕は思う。


Disc-2
“Mommy” side
​「東京VICTORY」(2014)の「うぉ〜お〜お〜」という歌い出しから幕を開ける「Mommy side」はこの時点で「Daddy side」とは違うアプローチにグッと心を掴まれるのだが、この「東京VICTORY」も何度もタイアップが付いているせいか今のサザンオールスターズを代表するスタンダードな楽曲として落ち着いた印象を受ける。東京という枠組みも超えて今の時代を精一杯生きる人々に向けてサザンから届けられる何の邪念もない「頑張って」というストレートなメッセージは「ロックンロール・スーパーマン〜Rock 'n' Roll Superman〜」(2005)、「アロエ」(2015)にも通じる一貫したテーマのように思える。そのような所謂「応援歌」的な曲が『キラーストリート』と『葡萄』のリード曲である事からも、桑田佳祐が音楽を制作する上での意識の変化がモロに伺える。Disc.1の「Daddy side」はセールスの低迷やメンバーの脱退もあり、バンドとして比較的不安定な時代を映し出した1枚であるとするなら、「Mommy side」に居るのは国民的バンドという地位を絶対的なものにしたサザンオールスターズなのだ。 「愛と欲望の日々」(2004)や「BOHBO No.5」(2005)、「神の島遥か国」(2005)、「はっぴいえんど」(2015)といった比較的に明るい作風のものも多い。また反戦ソングとして強烈なインパクトを持つFRIENDS」(2004)や現代社会の時事性を捉えた「ピースとハイライト」(2013)、永遠の平和を願った「」(2013)など平和へのメッセージ性が強い楽曲も収録されており、今こうして平和を純粋に願い歌う事は国民的バンドだからこそなし得る事なのかもしれない。

その一方でこの「Mommy side」から漂う『さくら』とはまた違った喪失感は何だろう。『キラーストリート』以降に桑田佳祐がぶち当たった「サザンオールスターズがこれからどう在るべきか」という葛藤そのものと言うべきか。『キラーストリート』をラストアルバムのつもりで制作したとまで言った桑田佳祐が「DIRTY OLD MAN〜さらば夏よ〜」(2006)で当時50を過ぎていた自らを“ふしだらな男”と揶揄した背景にあった彼なりの悲哀。30周年で突然の無期限活動休止を発表し「I AM YOUR SINGER」(2008)を残して音楽シーンから姿を消したサザンオールスターズに誰もが抱いていた途轍もない喪失感。タイムリーでサザンを追っていたリスナーが過ごしたサザンがいなかった空白の5年がこの「Mommy side」には確かに内在しているのだ。

そして何よりも『海のOh, Yeah!!』の目玉とも呼べるのは初収録された3曲の新曲である。まず原由子がボーカルを務めた新曲「北鎌倉の思い出」(2018)はこの秋公開の映画『ビブリア古書堂の事件手帖』の主題歌。鎌倉とは切っても切り離せない関係である桑田佳祐が書き下ろしたこの歌詞を原由子が歌うという必然性から起きる化学反応が実に心地良く、壮麗なミディアムバラードとして昇華されている。桑田佳祐がソロ名義で発表したアルバム『がらくた』(2017)で特に拘っていた日本語の文学的な歌詞がこの「北鎌倉の思い出」にそのまんま還元されているような感触。文学的な艶っぽさが滲み出ているのだ。恥ずかしながら人生で一度も鎌倉に行った事のない僕でもこの曲を聴きながら行った事もない古の街に想いを馳せてしまう。

映画『空飛ぶタイヤ』の主題歌である新曲「闘う戦士達へ愛を込めて」(2018)はサザン初めての配信シングルとなった。重厚なサウンドもさる事ながら時事性をガッツリ抑えた力強い歌詞の重みも凄まじい。競争社会でしかない現代で生きる事を「しんどいね」と悲観しながらも、そこで矛盾や葛藤を抱きながらも闘っている人々へ愛を込めて贈られたサザンからの応援歌である。何よりも音楽界という競争社会で試行錯誤しながら何とか生き残って来たサザンだからこそ歌えたような気もする。そして『海のOh, Yeah!!』の実質的なラストナンバーとなっているのは新曲「壮年JUMP」(2018)。このプレミアムアルバムの全てはこの曲の伏線とも言ってしまっても良い(ダメか)。『さくら』から『キラーストリート』、そして怒涛の復活劇を経て『葡萄』へ。サザンのメンバーも40代だったのがいつの間にかメンバー全員が還暦を過ぎていた。まさにサザンの壮年期を凝縮したアルバムがこの『海のOh, Yeah!!』でありその象徴が「壮年JUMP」なのだ。桑田は2016年に亡くなったデヴィッド・ボウイをイメージしてこの曲を制作したみたいだが、この曲を聴いたリスナーそれぞれが自分なりのアイドルをこの歌に重ねるのであろう。「栄光の男」(2013)の背景にある桑田佳祐が学生時代に青山の喫茶店で長嶋茂雄の引退セレモニーをテレビで観ながら涙したエピソードなんかは正にこの「壮年JUMP」にも繋がるアイドルの去り際に垣間見る儚さであったり悲しさではないだろうか。そういった子供時代の桑田にとっては決して手の届かない雲の上の存在であったアイドルもいれば、サザンがデビューした当時にテレビでヒットチャートを賑わせていたライバル的なアイドルもいて…。「壮年JUMP」はそれら全てのアイドルに捧げられたアイドル賛歌であり、究極のラヴソングなのだと思っている。最後に完全生産限定盤のみに収録されたBonus Track「弥蜜塌菜のしらべ」(2018)は初期サザンを彷彿とさせるようなアレンジや言葉遊びが楽しめる。割と好きな楽曲だったので念願の音源化に喜びを噛み締めたい。この曲に関しては昨年にコラムを書いているので是非。

サザンオールスターズ プレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』は『海のYeah!!』に負けず劣らずの画期的な名盤とブログの冒頭で述べたが、正直なところ長い目で見たら『海のOh, Yeah!!』の方が音楽的に評価されて行くのではないのだろうか、というのが僕の推測である。そりゃ『海のYeah!!』はサザンのパブリックイメージをとことん突いていて1曲1曲の知名度は高い。現時点で出荷枚数が480万を超えてるバケモノみたいなアルバムだが……サザンオールスターズというバンドのドキュメント性や彼らの魅力でもある多面性をより楽しめるのは多分『海のOh, Yeah!!』の方ではないかと思うのだ。是が非でもそれを皆さん自身で耳でも確認して頂けたらと思う(やまだ)




関連ブログ
・サザンオールスターズ『TSUNAMI』から17年。TSUNAMI論争にそろそろ終止符を http://yumediary.com/archives/11433614.html
・【コラム】サザンオールスターズ“原点回帰”の新曲「弥蜜塌菜のしらべ」を聴いた!http://yumediary.com/archives/17320158.html?ref=category1_article_footer2&id=7314426

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