
Mr.Childrenが通算19枚目のオリジナルアルバムとなる『重力と呼吸』(2018)を提げて今年の10月上旬から開催しているアリーナツアー『Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸』。今回のこのツアーではバンド史上初めてとなる単独での台湾公演がファイナルに組み込まれており、デビュー26年目にしてかなりチャレンジングなツアーになっている。そんなライブツアーの佳境とも言える11月29日の横浜アリーナ公演に満を持して行ってきた訳だが…これがもう何とも形容し難い圧巻のライブだった訳である。このブログでは拙い文章ではあるが、その時のライブレポートを書いていきたいと思う。下記からネタバレを含む為に閲覧は自己責任でお願い致します
開演予定の19時を約10分ほど過ぎた頃、会場が暗転しSEが流れ始め、そのまま「SINGLES」のイントロが鳴り響いた。赤いトップスに黒いジャケットを身に纏った桜井和寿 (Vo.Gt.)の姿が確認できると会場からは嬉し悲鳴が巻き起こり、鈴木英哉 (Dr.)の重く跳ねるタム回しが着々と会場のボルテージを高めて行く。この曲では照明の演出のみでスクリーンは終始暗いままだったので、詳細には分からないのだがSUNNY (Key.Cho.Gt.)がアコースティックギターを演奏しているように僕からは見えた。
1曲目の余韻に浸る間も無く中川敬輔 (Ba.)の不穏なベースから「Monster」へ。自らを“トビウオ”と呼ぶ“僕”が文明社会を敵視しながら嘆き悶える様を刺激的な歌詞で表現して見せたアルバム『I♡U』(2005)に収録されたこの1曲。スクリーンにはグリッチノイズな映像が映し出され、花道に躍り出た桜井は《Knock Knock》と高らかに歌い上げた。
大ヒット映画主題歌ともなった「himawari」のイントロが鳴り響くと会場からは「おぉ」と声が漏れた。田原健一 (Gt.)の荒々しさもさる事ながら洗練されたギターサウンドはライブで聴く度にグレードアップしている気がする。暗がりで咲く向日葵の力強さと弱々しさ。明るさと暗さ。言葉では何とも形容し難い美しさをサウンドで体現していく凄まじさ。ただ間奏で荒れ狂う桜井和寿のカズダンスは少し大人しめ。ライブ序盤で暴れまくったらライブ終わっちゃいますもんね。「さぁ始まったぞ!横浜アリーナ!行くぞ!もっと行くぞ!」と桜井が観客をこれでもかと煽ると「幻聴」へ。会場が一体となったコールアンドレスポンスを気持ち良さそうに受け取るメンバーの表情があまりに眩しかった。
桜井「この会場(横浜アリーナ)はMr.Childrenが一番ライブをしてる会場なので、ホームグラウンドだと思ってます。僕らのライブを何回も来てる人も初めて来た人も…あっ、因みに初めて来た人いる?」
(会場からポツポツと手が上がる)
桜井「そういう人、大切にしていきますよ(笑)」
「僕らと皆さんの出会いを祝してこの曲を送ります」という言葉から披露されたのは「HANABI」だった。恐らくこの日一番の歓声だったかもしれない。主題歌を担当したドラマ『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』の新シーズンの放送と劇場版の公開で更に人気を不動のものにした紛れも無い名曲。 舞台上の床(ミュージシャン達の足元)もスクリーンになっているのか、煌びやかな光が円を描く映像が映し出されていた。光と影の両面を常に音楽に取り込んで来たMr.Childrenの完成形とも言えるこの楽曲がリリースされてから10年。決して色褪せる事なく横浜アリーナに響き渡った。「HANABI」が終わりそのままJENのドラムソロへ。「これがMr.Childrenの骨格を作っている音です!!ドラム!!鈴木英哉!!ジェーーーーン!!」という桜井の紹介から、ドラムソロを引き継ぎそのまま「NOT FOUND」へ。衰える事を知らない歌声とバンドサウンドで圧倒した後は「忘れ得ぬ人」でしっとりと締め括られた。
Mr.Childrenに限った事ではないがライブでは観客が曲間にそれぞれにメンバーの名前を呼ぶという光景が頻繁に見受けられる物だ。だがこの「忘れ得ぬ人」演奏後だけは会場から物音一つせずに静まり返っていた 。そんな会場の雰囲気を察してか桜井は「凄いシーンとしてる…事故かと思いました。大丈夫ですか?楽しんでんの?」と笑いを誘う。ここで今回のライブツアーをMr.Childrenと共に周っているサポートメンバーの紹介が行われた。キーボード&コーラス&ギターを担当しているお馴染みのSUNNY。そして今回のツアーで初めてのサポートとなったシンガーソングライターの世武裕子 (key.)が紹介された。
ここでMr.Childrenのメンバー4人が花道へ移動。例年通りであれば花道の先端がサブステージとなっており、そこで演奏するのが恒例であったのだが今回は違った。桜井→田原→JEN→中川という順番で花道に沿って平行になるように配置されている(言葉だけで伝えるのが非常に難しい…)。そんな状態で次演奏される曲について桜井は淡々と語り出した。
桜井「1996年にリリースした曲を演奏したいと思います。僕らは1992年にデビューして94年に“innocent world”でレコード大賞を受賞しました。この2年間でスターダムにのし上がってしまったのです(笑)でもそれで有頂天になってた訳ではありません。寧ろ怖かったです。何故なら上った先には下り坂があるに決まってるからです。だから95年は必死で曲を沢山作ってました」
一語一句違わずにあのMCを覚えている訳もなく大体こんなニュアンスであったと思う。当時の桜井はホテルを丸々1ヶ月間も貸し切ってそこに缶詰めになって作詞作曲やデモ製作にひたすら打ち込むという過酷な環境下にいた。そんな境遇にいた桜井は1ヶ月の最終日だけ音楽製作に当てずに別の好きな事をしようと決めていたそうだ。そして待ちに待ったその最終日。午前中に草野球の試合を入れていた桜井はセンターを守っていた時に“名曲という花が咲く種”が降ってきたという。草野球の試合が終わると桜井は慌ててホテルに戻り最終日も結局のところ音楽製作に費やした…というエピソードが語られた。
そうして演奏されたのは“死を想え”というサブタイトルの付いた楽曲「花 -Mémento-Mori-」であった。花道の頭上から縦長のプロジェクタースクリーンのようなものが8枚ほど垂れ下がり(メンバー1人に対して背後に2枚というイメージ)、そこに美しい映像が投影され何とも幻想的な空間を作り上げるのだから息を呑むしかない。Mr.Childrenにとって鬱鬱とした時代であった1995年以降は『深海』や『BOLERO』という2枚のアルバムに代表されるように厭世観に満ち満ちた楽曲が多く発表されていて、活動休止直前のツアータイトル『regress or progress』(進化か退化)はその時代の彼らを象徴したものであったと言える。そんな鬱屈とした状況の中で《負けないように 枯れないように 笑って咲く花になろう》と歌いきったこの楽曲は深海の中で見つけた唯一の希望であったと思う。そんな楽曲をリリースから22年経った今にあの演出で聴けた事をひたすらに嬉しく思う。
まさかの1曲で予想以上の文量を書いてしまったがライブはまだまだ中盤戦である。世武のジャジーなキーボードから「addiction」へ突入するとオーディエンスからは新曲という事を忘れそうになるほどに一体感のあるクラップが巻き起こり「Dance Dance Dance」ではギターのイントロに「Printing」が挿入されているという兎にも角にも滅茶苦茶にカッコいいアレンジを見せ会場を沸かせた。
「ハル」を花道で歌う桜井の頭上に吊るされた大きな白いベールは照明を受けてまるで空に漂う雲のように揺らめき、終盤にはピンクの照明に照らされながら紙吹雪が舞い上がり、それはまるで季節外れの桜を連想させた。その後も「and I love you」や「しるし」と言った極上の名バラードが惜しげもなく続けて披露され会場を温かく包み込んだ。
「さぁ!みんなが日頃身に纏ってるもの、背負い込んでいるもの全部この会場に置いてって下さい!みんなを素っ裸にしたいと思います!」という桜井の高らかな宣言からニューアルバム『重力と呼吸』に収録されている「海にて、心は裸になりたがる」へ。中川敬輔のダウンピッキングが印象的なこのエイトビートロックソング…個人的には最新作の中でもお気に入りの曲であったが、ライブで更に化けた。ニューアルバム『重力と呼吸』はライブをイメージして製作されたという背景があるのだが、その策略にまんまとハマってしまったらしい。サビで約17,000人が雄叫びにも似た声を上げる様は圧巻である。そして会場のボルテージは最高潮に達したまま「擬態」、「Worlds end」と過去のアルバムを象徴してきたダイナミズムなリード曲が連発された。
桜井「僕らまだまだやりたい事があって、憧れがあって、理想があって、夢があって…少しずつでもいいからそこに近づきたい。そう思いながら新しいアルバムの製作に入りました」
本編最後を飾ったのはニューアルバム『重力と呼吸』の最後に収録されているロックバラード「皮膚呼吸」だった。《自分探しに夢中でいられるような子供じゃない》《意味もなく走ってた / いつだって必死だったな / 昔の僕を恨めしく懐かしくも思う》という今の桜井和寿だからこそ書けた何処までもリアルな言葉に胸が締め付けられる。いくつになっても憧れを抱く事への肯定、理想を抱く事への肯定、夢を持つことへの肯定。Mr.Childrenが今まさにそこ渦中にいるからこそ「皮膚呼吸」は限りない説得力を持つ。本編最後に相応しい1曲であった。
本編終了から少々時間を於いてアンコール。花道の頭上から垂れ下がったスクリーンに満月の映像が映し出されるとピアノの静謐なイントロが。現在の彼らのモードが色濃く反映された壮大なロックバラード「here comes my love」である。間奏のギターソロを青いGibsonのレスポールで見事な手つきで弾く桜井和寿よ。有り難い事に3月に行われたエレファントカシマシとスピッツとMr.Childrenの競演や7月に開催された『ap bank fes』で既にこの曲を生で聴かせて頂いてる僕としてはライブで聴く度に洗練されているように感じた。「風と星とメビウスの輪」ではレーザー光線を多用した演出が段々と厚さを増していくバンドサウンドとマッチしていて圧倒的だ。昨年のこの時期に製作されたという「秋がくれた切符」では公園のベンチに座っている気分で歌いたいとの事で桜井はモニターに腰掛け歌唱した。そしてついにクライマックスと時が訪れる。「みんなへの歌です!“Your Song”!」JENのカウントから壮麗なイントロへ。『重力と呼吸』を受けてのインタビューではライブがしたいと何度も繰り返していた桜井。そんな桜井は満面の笑みで音楽を全身で受け止めていた。オーディションも気持ちよさそうに肩を揺らしている。会場が実にピースフルなヴァイブスに包み込まれた瞬間であった。(やまだ)
Mr.Children Tour 2018-19
重力と呼吸
2018.11.29 (Thu.)
Yokohama Arena
1. SINGLES
2. Monster
3. himawari
4. 幻聴
5. HANABI
6. NOT FOUND
7. 忘れ得ぬ人
8. 花 -Mémento-Mori-
9. addiction
10. Dance Dance Dance
11. ハル
12. and I love you
13. しるし
14. 海にて、心は裸になりたがる
15. 擬態
16. Worlds end
17. 皮膚呼吸
〈encore〉
En1. here comes my love
En2. 風と星とメビウスの輪
En3. 秋がくれた切符
En.4 Your Song
コメント
コメント一覧 (1)
最後まで読みましたがすごい再現できていて感動が蘇ってきます
私は日本ガイシ2日目に行きました
大好きな「風と星とメビウスの輪」が「SENSE -in the field-」以来に聴けて驚きました