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  Mr.Childrenが4月から開催している6都市を巡るドームツアー『Mr.Children Dome Tour 2019 “Against All GRAVITY”の東京ドーム公演、その初日を観て来た。実は自分は​Mr.Childrenのライブを東京ドームで観るのは今回が初めて。Mr.Childrenと東京ドームと聞いてまず思い出すのは、彼らが1996年から1997年にかけて行ったライブツアー『regress or progress '96-'97』のファイナル公演。このファイナル公演を最後にMr.Childrenは当初から予定されてた活動休止に入る事となる。それはデビューから数年で国民的アーティストの称号と栄光を手にし躍進し続けた彼らが初めて経験する長い沈黙であった。

  そんなMr.Childrenのライブを東京ドームで観ることができるという事はそれだけで自分にとっては特別であり、ある程度の心構えはしていたつもりだったのだが……今回のライブツアーに関して言えば完全にノックアウトさせられてしまった。半年前に横浜アリーナで『Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸』を観させて頂いたのだが、今回のMr.Childrenのステージはアンサンブルもパフォーマンスも格段にパワーアップしていた。これは単にキャパシティの問題ではない。「バンド」という個体が持っているダイナミズムが明らかに増していたのだ。

  という訳で僕が覚えてる限りの事を軽いライブレポートとしてブログに書き留めようと思うのだが、このライブツアーは来月まで続くのでライブのネタバレを避けたい方は読まない事をオススメしあと僕は後にも先にもこの1公演にしか行っていないので、他の会場と今公演の演奏や演出を比較するような記事は書けないのでその辺はご了承下さい。











  開演予定時間を10分ほど過ぎて会場が暗転。SEと共にステージに登場した田原健一 (Gt.) がSEのストリングスにギターの音色を重ねていく。正面の巨大スクリーンに映されるのは高層ビルが立ち並ぶ都会の街並み。そして映像はリアルタイムかは定かではないのだがジャケットを羽織った桜井和寿 (Vo.&Gt) が舞台裏と思われる場所を歩く映像へと切り替わる。ドラムのカウントから「Your Song」のイントロが鳴り響き、同時に満開の花吹雪がステージからパンッと舞い上がり、会場からは嬉し悲鳴の大歓声が巻き起こる。白いトップスに白のジャケットを羽織った桜井の高らかなシャウトで会場のボルテージが早くも高まっていくのが分かる。

  華やかなオープニングの余韻も冷めやらぬまま何とまさかの「Starting Over」へ。2曲目にして既にクライマックスかのような気すらしてしまうが、この曲では4枚のスクリーンにメンバー4人の姿がそれぞれ映し出され《何かが終わり また何かが始まるんだ》という歌詞が途轍もないリアリティを持って歌われる、堂々とした開会宣言であった。続けて演奏されたのは大ヒット映画の主題歌として書き下ろされた「himawari」。感情が渦巻くような荒々しさと心が引き締まるような凛とした強さが同居した壮大なロックバラード。この曲がライブで初披露されたのは2年前のドーム・スタジアムツアーであったが、ライブを重ねる毎に強靭なロックサウンドを血肉化して行っているのが肌で感じられる。


  鈴木英哉ことJEN (Dr.) の激しいドラムで会場のボルテージを保ちつつ「準備はいいですか?行くよ!着いてきて!ワン・ツー、ワンツー!」という桜井の絶叫から「everybody goes〜秩序のない現代にドロップキック〜」へとなだれ込む。ネオンサインで俗世間を映し出したようなスクリーンをバックに演奏する様を見て、2年前とかのラジオで桜井がこの曲をボロクソに言ってた事を思い出して笑ってしまった。「平成のヒット曲をこの“令和”にもう1回」という桜井のフリから国民的ドラマの主題歌にもなった平成のヒット曲「HANABI」、そしてこちらも大人気ドラマの主題歌「Sign」が続けて演奏された。

  ここからはMr.Childrenのライブでは恒例となっている花道の先に設置されたサブステージへの演奏に移る。まずサブステージに1人で現れた桜井は白黒チェックのシャツに着替えてヘッドセットマイクにアコースティックギターという佇まい。そこで桜井は今回のツアータイトルについて語り出した。“Against All GRAVITY”=全ての重力に対峙して行く という意味合いを持ったタイトルだが、ここで言う重力はただの重力では無いという。桜井の説明が難しかったのか会場が静まり返ってしまい桜井が「アンダースタンド?」と首を傾げるシーンもあったが要するにここでの重力というのは、我々人間がアクションを起こそうとした時に必然的に発生する対抗力なのだと思う。平たく言い換えれば批判や逆境。そのような自分の信念に反発する全てのものと対峙していく覚悟を表したのが今回のツアータイトルなのだ。

  「変わっていった方が良いものと、変わらない方が良いものがあるんですよ。さて、Mr.Childrenはどちらなのでしょう。そんな事を自問自答しながらこの曲をお届けします」アコースティックギターをストロークしながら桜井が歌い出したのは「名もなき詩」。1番のサビから他メンバーの3人が合流しバンドサウンドへ変わっていくアレンジなのだが、この「名もなき詩」が非常に意味深かった。昨年のツアーでは桜井が一気にスターダムにのし上がった故に精神的に追い詰められていった'96年当時を振り返り「花 -Mémento-Mori-」を演奏した事は記憶に新しいが、今回のツアーでは「花」と同じ『深海』に収録されているこの「名もなき詩」が苦悩や葛藤の象徴として歌われているように感じた。“Against All GRAVITY”と題された今回のツアーに関して言えば、ライブ定番曲として盛り上がる「名もなき詩」ではなく、いつの時代も変わらない“在るが儘の自分で生きていく事”に対する葛藤 (抵抗力) としての「名もなき詩」がセットリストに組み込まれているのだ。

  次の楽曲を演奏するにあたってサブステージにサポートメンバーのSUNNY (Key.) と昨年のツアーからサポートとして参加しているシンガーソングライターの世武裕子 (Key.) が登場すると、桜井は2005年にリリースされたアルバム『I ♡ U』に纏わるエピソードと共にこのアルバムに収録されている「CANDY」を披露すると会場はその歌声に酔い痴れる。SUNNYのキーボードでアレンジを加えられた「旅立ちの唄」では会場が温かい拍手に包まれた。

  続いては桜井が自分が作ってきた曲の中で一番大好きな曲と前置きして「ロードムービー」が演奏された。メインステージとサブステージを繋ぐ真っ直ぐな花道が道路の役割を果たし、その延長線上にあるバックスクリーンには瞬く間に街頭の灯りが風景として流れていく (説明がかなり困難です)。21世紀も音楽を続けてといいぞと言われた気がして最後は涙を零しながら歌詞を書いたという思い出を語った桜井。「ロードムービー」を死ぬまでに一度はライブで聴きたいと熱望していた僕にとって、この日の名演は過呼吸になるほど感動的だったのだが、それ以上にこの楽曲で描かれている等間隔に置かれた闇を越える快楽に浸ってオートバイを走らせる男女の姿が、現状は変わらずとも暗闇で音楽を作り続けたかつての桜井と重なってしまい感極まってしまった。

  上昇した花道に楽器隊のメンバー3人が並ぶという大胆な演出を見せた「addiction」ではアウトロで世武のジャジーなピアノとJENのフロアタムがぶつかり合う激しいセッションを披露し、アグレッシヴなダンスチューン「Dance Dance Dance」では一頻りオーディエンスを踊り狂わせた。中川敬輔 (Ba.) の不穏なベースが印象的な「Monster」ではグリッチノイズな映像が巨大スクリーンに映し出され、上昇した花道の上で高らかにシャウトする桜井は5万人をオーディエンスを相手に堂々と息巻いてみせた。

  Mr.Childrenの中でも攻撃的なロックチューンが続いたが「SUNRISE」で会場のバイブスは一気に塗り替えられていく。繊細なアルペジオにピアノの旋律が美しく絡み合い、そこに水色のトップスに水色のジャケットという衣裳を身に纏った桜井がそっと声を添えていく。先程までとは違いスクリーンに映像は映さず、派手な照明もなく必要最低限の演出で平熱のアンサンブルを奏でていく。終盤には巨大なスクリーンに地平線が映し出され《繰り返すいのちに少し今も胸が躍る》という前向きな歌詞に呼応するように地平線から美しい陽が昇り会場を照らし包み込んだ。最大の売り上げを記録した「Tomorrow never knows」のイントロが鳴り響くと会場からは「おぉ」と声が漏れ、サビでは一体感のあるコールアンドレスポンスで会場を沸かせた。

  「音楽っていう“乗り物”に皆んなを乗せて悲しみや寂しさや退屈から出来るだけ遠い場所に届けたいと願ってます」という桜井のエモーショナルな呼び掛けから「Prelude」へ。決してその言葉がレトリックでは無い事をタイムリーで証明して見せるパワフルな演奏と伸びやかな歌声からは27年というキャリアから醸成された圧倒的な自信と覚悟を垣間見る。あまりの迫力に比喩ではなく彼らなら本当に東京ドームという会場そのものを5万人を乗せる巨大な汽車へと変えてしまえそうな気さえしてしまうのだ。

  会場から沸き上がる大歓声を浴びながら突入した「innocent world」では大合唱を誘い至上な空間を作り上げた。本編のラストを飾ったのは海にて、心は裸になりたがる」!「みんなが日頃から背負い込んでいる物、身に纏ってる物を全部この会場に捨てていって下さい!皆んなを裸にしたいと思います!」疾走感のあるバンドサウンドの中で桜井は水色のジャケットを脱ぎ捨て振り回し、JENもドラムスティックを頭上に掲げて煽り一斉をクラップを巻き起こした。メンバー全員が40代後半であるバンドが、まるで若手バンドのように無邪気な表情で音楽を鳴らしていた。《きっと世界はあなたに会いたがっているよ / 今心は裸になりたがっているよ》そう歌う桜井のストレートな歌声がMr.Childrenの「今」を象徴するマインドとして東京ドームに響き渡った。

  SEから「SINGLES」の力強いバンドサウンドに突入し、ここからアンコールが幕を開けると重く跳ねるJENのダイナミックなドラムから「Worlds end」へとなだれ込みを見せ壮大なスケール感でオーディエンスを圧倒した。「もし明日から声が出なくなっても、バンドがどうにかなってしまったとしても、きっと後悔はしないと思う」ラストの楽曲の演奏前に桜井和寿はそんな風に語っていた。そして桜井が続けた「日本一幸せなバンドだと思う」という言葉は現在のバンドのモードが過去最高に風通しの良いものになっている事を感じさせるものであったのと同時に過去にはバンド解散も考えてた桜井がバンドをタフネスに27年間続けてきた事に対する素直な肯定のようにも思えた。最後の最後にMr.Childrenは東京ドームに集結した5万人のファンとの再会を約束し、壮大なロック・バラード「皮膚呼吸」で2時間半にも及んだワンマンライブの幕を下ろした。

  ブログの冒頭で少し触れたがMr.Childrenが活動休止直前に東京ドームでファイナル公演を行っていた当時のバンドの空気感という物は決して良いものとは言えなかったと思う。何故なら『OUT OF DEEP SEA』=“深海からの脱出” というライブコンセプトに反して、あのライブは唯でさえ憔悴しきった桜井の精神状態を容赦なくダウナーな深海へ引き戻すものだったからだ。《無重力 おまえの宇宙へと引きずり込んでくれ》そう歌わなければならないほど当時の桜井にとって「売れた」という事実が途轍もない重力 (Gravity) となって伸し掛かっていた事は想像に難くない。しかし22年が経ち奇しくも同じ東京ドームという会場で桜井和寿はついに自分自身を苦しめていた“GRAVITY”と真っ向から対峙し、その壁を圧倒的なスケールで突破して見せた。27年という彼らの長いキャリアの中でもトップクラスに重要な歴史的一夜を目の当たりにした気がする。

  かつて「やっぱりロックにはなれない」と吐露していたMr.Childrenが東京ドームのド真ん中でロックバンドとして強靭な音楽を鳴らしていた。ライブの途中に桜井がMr.Childrenが変わっていくべきか否かを自問自答する場面が見られたが、その答えを敢えて書く必要もないだろう。《苦しみに息が詰まったときも また姿 変えながら / そう今日も自分を試すとき》ラストに演奏された「皮膚呼吸」を締め括るこの一行に、全ての想いは込められている(やまだ)




Mr.Children Dome Tour 2019 “Against All GRAVITY” 
2019.05.19 (Sun.)
in Tokyo Dome

1. Your Song
2. Starting Over
3. himawari
4. everybody goes 〜秩序のない現代にドロップキック〜

5. HANABI
6. Sign
7. 名もなき詩
8. CANDY
9. 旅立ちの唄
10. ロードムービー

11. addition
12. Dance Dance Dance
13. Monster

14. SUNRISE
15. Tomorrow never knows
16. Prelude
17. innocent world
18. 海にて、心は裸になりたがる

En.1  SHINGLES
En.2  Worlds end
En.3  皮膚呼吸