IMG_0973

RADWIMPSが今年の6月から開催していた全国11都市を巡るライブツアー『ANTI ANTI GENERATION TOUR 2019』が終わった。ここではツアーファイナルとなった8月29日の横浜アリーナ公演の模様を踏まえ、最初にこのツアーを観た2ヶ月前のZOZOマリンスタジアム公演から1ヶ月前のセキスイハイムスーパーアリーナ公演を経て、ツアーファイナルの横浜アリーナ公演を見届けた僕個人の今回のツアーに対する感想を書かせて頂きたい。

「今回のツアーは準備が大変で『ANTI ANTI…』の曲達をどうやってステージで表現しようかと、今までのツアー以上にスタッフとメンバーで探し合った」ツアーファイナルとなった横浜アリーナ公演の終盤でMCを任された武田祐介 (Ba.) がそう吐露した。まず今回のツアーを語る上でこの点については言及しておきたい。RADWIMPSが昨年にリリースしたアルバム『ANTI ANTI GENERATION』はバンドとしての拡張期をシンボリックに映し出した作品だった。彼等らしい硬派なバンドサウンドを牽引する楽曲もあれば、ヒップホップとのクロスオーバーを見せる楽曲、ホーンセクションを多用した楽曲や合唱曲など音楽的なアプローチが貪欲にやり尽くされた過去最高にバラエティーに富んだ1枚だと言うことはこのアルバムを聴けば一目瞭然だ。そんなアルバムを提げてのライブツアー。リスナーとしてはアルバムの中で散々広げた風呂敷の何処を取捨選択してライブで表現するのかという事に意識が向くのは自然だ。

そんな気持ちを抱えながら迎えた6月23日のZOZOマリンスタジアム公演であったが、ハードルを上げ過ぎたのか自分の期待は空回りしてしまった。スタジアムでのワンマンという彼等とっては初の試みで探り探りであったのが目に見えてしまった上に『ANTI ANTI…』の楽曲群をライブで演奏する筋肉の使い方をバンド自身が未だ掴み切れていない印象を受けたのだ。ただそんなスタジアム公演だが「タイタンゾンビーズ」と命名されたタブゾンビ率いるホーン隊がサポートで参加していたのは感銘を受けた。アルバムの制作でホーンセクションを今後も取り入れたいと意気込んでいた野田洋次郎 (Vo.&Gt.) が早速ツアーからホーン隊を編成し「カタルシスト」や「アイアンバイブル」など過去の楽曲に大胆なアレンジを加えていた事は現在のバンドのモードが色濃く反映されている。“第2のファーストアルバム”と謳った『人間開花』から3年が経った今、RADWIMPSというバンドは過渡期にある。今回のツアーは全20公演にも及ぶ公演数の中で目まぐるしく変わり続けるロックバンドのクリエイティビティーと成熟過程を見る事ができるツアーだと悟ったのだ。

IMG_1119

RADWIMPSのアルバム『ANTI ANTI…』を語る上で看過できないのは豪華なゲストボーカルを招き入れた数々のコラボ曲の存在だ。追加公演となった横浜アリーナ3daysでは1日目にONE OK ROCKのTaka、2日目にはスタジアムに引き続きラッパーのMiyaci、アルバム『天気の子』から三浦透子、ファイナルにはシンガーソングライターのあいみょんがサプライズで登場し会場を熱狂させた。「今日は最終日なのでサプライズという事でまだツアーでやってない曲をやっても良いですか?あいみょんです」という野田の紹介でステージにあいみょんが登場すると会場からは今日一の歓声が沸き起こる。「俺らも3ヶ月間全くやってなかったから本当にハラハラではありますけど、皆さん目撃者になって頂けますか?」という野田の言葉から演奏されたジャジーでメロウなサウンドが印象的な「泣き出しそうだよ」。野田がピアノを弾き始めると先程まで緊張気味であったあいみょんの表情が瞬時に艶っぽいものに変わる。伸びやかで何処か切ない歌声で交わされる2人の掛け合いにオーディエンスは静かに聴き入った。

今回のツアーは昨年にリリースされた『ANTI ANTI GENERATION』を提げたツアーである事は言うまでも無いが、ツアー中にRADWIMPSが劇中音楽を担当した新海誠監督の最新作である長編アニメーション映画『天気の子』の公開とそれに合わせてサウンドトラックアルバムがリリースされるという“特異性”を持ち合わせている事も忘れてはいけない。今回のセットリストを振り返るとライブ本編のラストに『天気の子』の主題歌である「愛にできることはまだあるかい」が演奏されているのだが、この意義はあまりにも大きい。映画『君の名は。』の公開日から丁度1年後に新海監督から『天気の子』の脚本をメールで受け取った野田が最初に着手したのが「愛にできることはまだあるかい」の制作であった。この時点では「友人として脚本を読んでくれないか」という程度であり、野田が事務所に正式に話を通したのはファーストコンタクトから約3ヶ月後の事である。

異常気象によって雨が降り止まない夏の東京で出逢った家出少年の帆高と天気を操る少女・陽菜。幾度となく大人達と衝突し、天変地異に見舞われながらも「まだ何かやれることがある」と奔走する帆高の想いが、音楽制作の中で常に可能性を模索し続ける野田の想いとオーバーラップし「愛にできることはまだあるかい」という楽曲は生まれた。ライブの本編を締め括る《愛にできることはまだあるよ / 僕にできることはまだあるよ》というフレーズはフィクションの世界を超えて「RADWIMPSが抱くロックバンドとしての矜持」として響き渡る。それ故にライブの後味としては『ANTI ANTI GENERATION』と『天気の子』という2枚のアルバムをニュートラルに感じさせる物となっているのだ。

IMG_0972

「絶対に俺らは自分達がやりたくないと思った事はやらないし、面白いとかカッコいいとか素晴らしいと思った物を世の中に発表するつもりで。全部が全部一緒に噛み合わなくてもいいんだよ?でも俺らはそうやって音楽を作っていくんで、それがあなた達の楽しみになってくれるんだったら約束します」ライブが後半戦に入る前のMCで野田はそう話した。

かつて横浜アリーナで2daysのワンマンライブを行うのも拒絶していた人間が、横浜アリーナ3daysのワンマンライブを駆け抜けた。かつては自分と“君”だけの為に音楽を作っていた人間が、顔も知らない誰かの為にも音楽を作れるようになった。人と約束をするのが苦手だと言っていた人間が、こうして1万7000人と約束を交わせるようになった。ロックバンドとしてのキャリアを積む度に、横浜アリーナというステージに立つ度にRADWIMPSというバンドは大きくなっていくように僕には見える。ZOZOマリンスタジアム公演のライブレポを書いた時に僕は「完全無欠なRADWIMPS”ではなく、その中で貪欲に変わり続ける“成長過程のRADWIMPS”を楽しめるライブ」と評したが、RADWIMPSというバンドは紛れもなく“完全無欠のロックバンド”であった。

ツアーが終わったら再び音楽制作に入るという事を明かした野田。RADWIMPSの創作モードはまだまだ続きそうだ。昨日までの世界を脱ぎ捨てて、いざ僕は大海へ旅に出るーー。『ANTI ANTI GENERATION TOUR』という長旅を終えたRADWIMPSの前には無限の大海原が広がっているに違いない(やまだ)

IMG_0975

RADWIMPS「ANTI ANTI GENERATION TOUR 2019」 
2019.08.29 (Thu.) 
Yokohama Arena 

SE. Anti Anti overture  

1. tazuna 
2. NEVER EVER ENDER 
3. ギミギミック 
4. カタルシスト 

5. 万歳千唱 
6. 謎謎 
7. アイアンバイブル 
8. I I U 
9. そっけない 
10. 洗脳 
11. PAPARAZZI〜*この物語はフィクションです 

12. おしゃかしゃま 
13. DARMA GRAND PRIX 
14. TIE TONGUE 
15. 泣き出しそうだよ(feat. あいみょん) 

16. IKIJIBIKI 
17. 君と羊と青 
18. いいんですか? 
19. 愛にできることはまだあるかい 

 〈encore〉 
En.1  正解 
En.2  DADA 
En.3  会心の一撃


【関連記事】