FullSizeRender

今年デビュー30周年を迎えるMr.Childrenが、4月8日、9日に東京ガーデンシアターで「FATHER&MOTHER Special Prelive エントランスのエントランス」を開催した。

本公演は、Mr.Childrenがデビュー30周年を記念して開催する全国ツアー「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」に向けたプレライブであり、Mr.Childrenの公式ファンクラブ「FATHER&MOTHER」会員のみを対象にして行われた。昨年2021年にはB'zがオーガナイザーを務めたロックプロジェクト「UNITE」や、無観客生配信ライブ「ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS」の特別版などに出演していた彼らだが、ワンマンライブの開催は「Mr.Children Dome Tour 2019 “Against All GRAVITY”」以来、約3年ぶりとなる。コロナウイルスによって強いられてきた様々な制約のなかで、誰もが渇望していたMr.Childrenとの再会。そういった意味でも非常に意義のあるライブとなった。本稿では、同公演の初日に当たる4月8日公演の模様をレポートしていく。メンバーのMCが意訳になってしまう点や、どうしても演出の描写が曖昧になってしまう場面は割愛しているので、ご了承いただきたい。


2022年4月9日、東京ガーデンシアター。最近でこそホールツアーの開催があったが、基本的にドームやスタジアムを主戦場としているMr.Childrenにとって、こういった会場でライブを開催すること自体が貴重。また、1992年のデビューから今年で30年を迎える彼らの1発目のライブともあって、会場に駆けつけたファンの表情も期待感で溢れているように見える。開演予定時間を10分ほど過ぎ、会場の照明が消灯。エンニオ・モリコーネ,ドゥルス・ポンテスの楽曲「Your Love (Once Upon A Time In The West)」がオープニングSEとして流れ、青い照明で照らされたステージにメンバーが登場すると、会場からは盛大な拍手が巻き起こる。鈴木英哉(Dr)のカウントから、この会場にいるファンなら聴き慣れているであろうアレンジから演奏がスタート。「覚えてますかこの感じ!会いたかったです!!さぁ、こっから始めようか!!Mr.Childrenです!!」というアコースティックギターを肩から下げた桜井和寿(Vo)の絶叫から「youthful days」の瑞々しい田原健一(Gt)のリフが印象的なイントロへと雪崩れ込む。コーラスで繰り返される“I got back youthful days”というフレーズを体現するように、若々しく力強い、ハツラツとした演奏を披露した。続けて演奏されたのは、ビートロック色の強い「海にて、心は裸になりたがる」。ラストのサビ前では「ナカケー!」という桜井の煽りに、普段は大人しい中川敬輔(Ba)が「ウォー」と全力で応えた。バンドとファンの愛情と思い出をいっぱい染み込んだ曲として演奏された「innocent world」では、バンドとファンが一体となってライブ空間を作り上げており、バンドにとって大きな転換点となったこの楽曲がどれだけ愛されているのかを再確認させられた。

ここから桜井によるMCへ。「どうもありがとう」という第一声から、ファンから鳴り止まない拍手が送られる。その温かい拍手に「泣くな、JEN!」と感極まって泣き顔になっている鈴木に桜井が言葉を掛ける。「この3曲で何回も泣きそうになってしまいました。泣いてる人もお見かけしましたよ」、「今日は“エントランスへのエントランス”です。ボクシングで言うところのスパーリングです。でも手を抜くわけではないんで、皆さんも僕らを叩きのめすつもりでかかっていただきたいと思います」という、挑発的な桜井のMCにファンは拍手で応えた。

「僕にとっては初々しくて照れ臭い歌ですが、心を込めて今お届けします」という桜井の前振りから演奏されたのは、彼らの3rdシングル曲「Replay」だった。続けて23rdシングル曲「Any」を披露すると再びMCへ。「“今 僕のいる場所が 探してたのと違っても間違いじゃない”という歌詞がありますが、デビューして30年して辿り着いたこの場所は、僕らが望んだものから遠くかけ離れた素晴らしい幸せな場所だと思ってます、どうもありがとうございます」と桜井が頭を下げると、会場から温かい拍手が送られた。

ここのMCでは、Mr.ChildrenとSUNNY(Key)のメンバー紹介が行われ、併せてこの5人のメンバーでドーム&スタジアムツアーを回ることが発表された。これは出来るだけ濃い形で凝縮したMr.Childrenを届けたい気持ちの表れだという。そんな5人のアンサンブルで丁寧に奏でた「僕らの音」では、切ないラブバラードに会場にいた誰もが聴き入っていた。ここからはB'zとのライブイベントでも披露されていた楽曲「DANCING SHOES」を筆頭に「ロックンロールは生きている」、「フェイク」、「Worlds end」と新旧織り交ぜた激しいロックチューンを立て続けに披露し、ライブバンドとしての力をしっかりと見せ付けた。桜井の曲紹介を挟んで披露されたのは、中島健人が主演を務めるNetflix映画『桜のような僕の恋人』の主題歌として書き下ろされた新曲「永遠」。本楽曲は7年ぶりの小林武史との共作であり、流麗なストリングスと、桜井が綴る歌詞の情景描写が美しく重なり合うMr.Childrenらしい王道系譜のバラード曲である。曲紹介で桜井が「これから時間をかけて愛情と思い出をいっぱい吸い込んで大きい曲になって欲しい」と言っていたが、楽曲のタイトルのように、永遠に、人々の心に寄り添っていく楽曲になるに違いない。それを確信させるような力強くも優しいメロディが会場を包み込んだ。その後は、ジョージ・ハリスンの息吹を感じる大人のラブバラード「others」、バンドとして最大のヒットを記録した名曲「Tomorrow never knows」へと繋ぎ、そして本編ラストを映画「ONE PIECE film STRONG WORLD」の主題歌として書き下ろされた「fanfare」で締め括った。

本編終了後は会場からの鳴り止まない拍手に応えてメンバーがステージに再登場し、アンコールへ。ここで再度メンバー紹介が行われ、鈴木は「会いたかったよ!愛してるぜ!」と叫び、バスドラに印刷された新しいツアーのロゴもアピール。中川は「ベースの中川です。これからもよろしくお願いします」とだけ挨拶し、そのシンプル過ぎる挨拶に会場からは笑いが漏れた。田原は「入学式とかそういう時期で、僕たちも再スタートって感じなんですけど、これからもよろしくお願いします」とファンに挨拶、いつもと何も変わらないMr.Childrenの姿が微笑ましい。そしてアンコールでラストを飾ったのは、まだリリースもされていなければ、フル尺も公開されていない新曲「生きろ」だった。7月15日公開の映画『キングダム2 遥かなる大地へ』の主題歌として書き下ろされた本楽曲は、コロナ禍で様々な活動が行えなくなり、音楽への情熱をどこへ向けたら良いのかと立ち尽くしていたバンドにとって、次の場所へと向かう道標となった楽曲である。《なくしたものの分まで/思いっきり笑える/その日が来るまで/生きろ/生きろ》終わりが見えないコロナウイルスのパンデミックや、日に日に混沌を極めていく世界情勢、そんな時代のなかで“生きろ”という極めてシンプルなメッセージが、Mr.Childrenというフィルターを通すことで、あまりに強い説得力を持って会場に響きわたった。こうして2時間にも及んだスペシャルプレライブは幕を閉じたのだった。

バンドが歩んできた30年の軌跡をぎゅっと凝縮したようなライブだった。“売れること”に躍起になりサビをCM尺の15秒に収めた「Replay」や、バンドをスターダムへのし上げた「innocent world」と「Tomorrow never knows」、そうして掴んだ成功の裏側で人知れず孤独と絶望を味わいながらも、その時期を超克して“今”を肯定した「Any」、Bank BandではないMr.Childrenの音を再確認した「Worlds end」と「僕らの音」、アルバム『SENSE』へ向かうきっかけとなった「ロックンロールは生きている」、衰えないロックバンドのダイナミズムを鳴らす「海にて、心は裸になりたがる」などなど、年代的には歯抜け状態ではあるが、彼らのキャリアを追体験するには充分なラインナップと言えるだろう。そして何よりもそういったライブの最後に最新曲「生きろ」が配置されていることが意義深い。思えば彼らは「優しい歌」や「祈り ~涙の軌道」など、キャリアの節目となるライブのラストではいつも最新曲を我々に届けてきた。そこにはいくらキャリアを重ねても今のMr.Childrenを鳴らすというミュージシャンとしての矜持があることは言うまでもない。そして今も尚それは健在だ。「まだまだ僕らは音楽を通して生きていく」と最後のMCで語った桜井。これから30周年を迎えるMr.Childrenがどんな景色を見せてくれるのか、楽しみでしょうがない。(やまだ)



Mr.Children「FATHER&MOTHER Special Prelive エントランスのエントランス」

2022.04.08 (Fri.) 東京ガーデンシアター

01. youthful days
02. 海にて、心は裸になりたがる
03. innocent world
04. Replay
05. Any
06. 僕らの音
07. DANCING SHOES
08. ロックンロールは生きている
09. フェイク
10. Worlds end
11. 永遠
12. others
13. Tomorrow never knows
14. fanfare
En. 生きろ