拝啓
小雪を迎え、いよいよ寒さが身にしみる頃となりました。皆様におかれましては益々ご壮健のことと存じ上げます。こんにちは、山田です。手紙のような書き出しから始まりましたが本日は11月23日(いいふみの日)にリリースされた桑田佳祐さんのニューシングル『君への手紙』の感想を簡易的にまとめたいと思います。個人的にはどストライクな1枚で、買って以来リピートが絶えません。聴くに当たって同日リリースされたRADWIMPSのアルバム『人間開花』との両立が非常に難しいところ……。では、さっそくまとめて行こうと思います。
桑田佳祐 "君への手紙"
《収録曲》
1. 君への手紙
2. 悪戯されて
3. あなたの夢を見ています
4. メンチカツ・ブルース
桑田佳祐さんはサザンオールスターズとして10年ぶりとなるアルバム『葡萄』を発表し、4ヶ月にも及ぶアルバムを提げての全国ツアーでは圧倒的なパワーを見せつけ全国のファンを歓喜の渦に巻き込みました。そんな桑田さんが還暦という1つの節目を迎え、3年ぶりにソロ名義での活動を再開させました。今年の6月に発表された『ヨシ子さん』はアナログ世代の悲哀を無国籍でラディカルなサウンドに乗せて歌い上げ日本の音楽シーンに衝撃を与えました。そして2016年、2枚目のシングルとして届けられたのが美しき 人生賛歌のロッカーバラード『君への手紙』でした。この曲を簡潔に表現するならば"名曲"。僕は名曲や名盤といった表現が最近は軽視されてる気がしてあまり使わないのですが、これに関しては言わせて下さい。紛れもない名バラードだと。
この楽曲は映画『金メダル男』のために書き下ろされた楽曲で、監督は芸人の内村光良さん。桑田さんと長年交流が続いている内村さんは「この映画の主題歌は桑田さんしかいない」と思ったらしく、駄目元で直筆の手紙と映画のDVDを桑田さんに送りオファーをしたと言います。1週間後、桑田さんから手紙の返事として"君への手紙"と書かれたCDがマネージャー経由で内村さんの手元に届けられたというまさに桑田さんから内村さんへの手紙がこの楽曲なんですね。「 男泣きをしました。一生の曲になった」これは内村さんの言葉ですが、僕もこのエピソードを聞き男泣きしました。このやり方がいかにも桑田佳祐らしいというか本当にズルい人だなぁと。
アコースティックギターのダウンストロークから入るイントロ、そして淡々と続くダウンビートは普遍的でありながらも直球で心に響きかけるメロディラインに仕上がっていて、今の桑田さんだからこそ創れたスタンダードな名曲となっていると思います。この曲は桑田さんの独白のように綴られた言葉の一節一節が重く丁寧に歌われている感じがして聴き応え抜群です。僕にとってこれ以上とない手紙になってくれたと思います。
80年代は最先端の音を積極的に取り入れあらゆるロックサウンドを模索していた桑田さんが自身のルーツである歌謡曲を堂々と歌い上げるというこの時間の流れを大事にしたいもので、そんな桑田さんの原点を聴けるのが「悪戯されて」という楽曲です。先日、WOWOWと地上波でも放送された『偉大なる歌謡曲に感謝 ~東京の唄~』の締めに初披露となったこの曲は歌謡曲そのもの。不思議な事に古臭さを感じず、新鮮な気持ちで聴けるのは桑田マジックなのでしょうか。Music Videoには広末涼子さんが出演し、70年代のサスペンスドラマを彷彿させる仕上がりとなっております。
桑田佳祐「悪戯されて」Music Video
「あなたの夢を見ています」はこの季節にピッタリのポップナンバーとなっていて、そのサウンドはどこか88年頃の桑田ソロ楽曲を彷彿されるよう音(=小林武史サウンド?)で初めて聴いた時は鳥肌が立ちました。「素敵な未来を見て欲しい」のような美しい洗練されたサウンドが脳裏に蘇り、心地いいメロディが離れてくれません。失恋をここまでアップテンポなメロディに乗せて歌えてしまう桑田さんの凄さは「悲しい気持ち〜Just a man in love〜」の時点で思い知っていましたが再認識しました。間奏で入る桑田さんのギターソロも絶妙で見事としか言えないです。ちょっとしたクリスマスソングとして重宝していくつもりでございます。
シングルの締めにはいつもの遊び心満載の桑田さんが見れます。「メンチカツ・ブルース」はタイトルからも察しがつきますがネタです(笑)上の3曲が息をするのも忘れてしまうほど聴かせる楽曲に仕上がっていたので最後に肩の力を抜いて聴ける楽曲があるのは流石の安定感です。歌詞にはタモリやビートたけし、明石家さんまの名前がダジャレのような形で挿入されていたり、しょうもないネタがあったりと落語を連想する歌なのですがもしかしたらこれも立派な聴かせる歌なのかもしれません。歌詞がふざけているだけでは終わらないのが桑田佳祐で、アコースティックギターでの表現力は圧巻です。
『君への手紙』はシングルでありながらもドキュメント性をかなり感じることができる1枚になってると思います。このシングルがまさに今の桑田さんが歌うことで意味を成す4曲であること、それらの楽曲が手紙という形で届けられたことに、ソロ活動29周年という年にこの作品が作られたこと、それは桑田さんにとってもファンにとってもあまりにも特別なものだったのではないでしょうか。
この1年で『ヨシ子さん』と『君への手紙』がリリースされたことは翌年への大きな飛躍を予感させます。『ヨシ子さん』でホップ、『君への手紙』でステップ……来年にリリースされるであろうニューアルバムで大きなジャンプをしてくれるのではないでしょうか。2016年はそのジャンプの為の土台作りに過ぎなかったのかもしれません。末恐ろしい……。年末に横浜アリーナで開催される年越しライブ『ヨシ子さんへの手紙〜悪戯な年の瀬〜』はこの1年の楽曲を惜しまずぶっ込んだようなタイトルとなっていて僕は行けませんが大いに(映像化)期待しています。還暦を迎えたにも関わらず、音楽活動の衰えを知らず、新しい音楽を次々に産み続ける鬼才は今後何を聴かせてくれるのでしょうか。(やまだ)
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