桑田佳祐がソロデビュー35周年を記念して現在敢行中の5大ドームを含む全国ツアー「桑田佳祐 LIVE TOUR 2022「お互い元気に頑張りましょう!!」supported by SOMPOグループ」。同ツアーの東京公演が12月10日と11日の2日間にわたり東京ドームにて開催され、ありがたいことにその初日に当たる12月10日の公演にお邪魔することができた。本稿では2時間半にも及んだ同公演の模様をライブレポートとしてお届け。MCが意訳になってしまう点や、演出の描写が曖昧になる箇所は割愛しているのでご了承いただきたい。また、ネタバレを含む内容となるためセットリスト/演出などを知りたくない人はここでページを閉じることをお勧めします。


2022年12月10日、東京ドーム。最近では自治体やイベント施設と連携してライブ中の声出し制限を緩和する動きも増えてきているが、この日の公演は原則声出し/歌唱禁止。入場時の検温や会場内でのマスク着用など、まだまだ新型コロナウイルス感染拡大による制約は残っているのが現状だ。開演の30分前に入場すると場内では松任谷由実の「DESTINY」や稲垣潤一の「クリスマスキャロルの頃には」など往年のポピュラーミュージックがBGMとして流れ、開演を待ち侘びる会場の空気をいっそう温めていた。そして開演直前の場内アナウンスでは普段よりもカメラが多めに回っていることが明かされ、早くも今日が特別な一夜となることを予感させる。

開演予定時間の17時30分を少し過ぎ、会場の照明が消灯。ステージ上に出現したのは“若い広BAR”と題された架空のバー。ゆったりとしたジャズピアノがおしゃれで落ち着いた空間を演出する。そんなジャジーなピアノから流れるように1曲目「こんな僕で良かったら」の演奏へ入ると、ステージ中央に設置された扉から桑田佳祐が「こんばんは~」と登場。会場からは盛大な拍手が沸き起こる。《こんな僕で良かったら/今日は最後までよろしくね》と替え歌を交えてオーディエンスに向けて挨拶し、2曲目に演奏されたのはバーの店名の由来にもなっている「若い広場」。桑田佳祐ソロ30周年にも当たる2017年にNHK連続テレビ小説「ひよっこ」の主題歌としてリリースされた本楽曲も、すっかり桑田の代表曲のひとつとして愛されているのが会場の温かい手拍子から伝わってくる。“ステージにおけるファンとの再会”を約束したライブ讃歌「炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]」では、ラストのサビで銀テープが噴射。3曲目にしてクライマックスさながらの熱狂に包まれた。

「どうもありがとうー!お疲れさまでございます。大変お寒いなかいらっしゃいました!どうも私、原由子の夫でございます」と本日最初のMCからいきなり笑いを誘う桑田。「今日はすぐ終わります!22分くらいで終わります!だって私もう66ちゃい(歳)ですから。今日はもう“波乗りの歌”とか、ああいう軽薄は歌はやりません。これからは重みを出していきます」と桑田らしい自虐と諧謔を交えながらも「今日はありがとうございます、最後までよろしくお願いします、嬉しいよー!」と満員の東京ドームを見渡し、いまだに続くコロナ禍でもこうしてファンと再会できた喜びを噛み締めた。

「あれ、ちょっと何か聞こえません?」と桑田が問い掛けると、何処からかスレイベルのシャンシャンという音が流れ出し、KUWATA BANDの2ndシングル曲として発売された「MERRY X'MAS IN SUMMER」へ。間奏中にはステージにサンタクロースが登場するなど桑田らしいコミカルな演出も忘れない。甘く切ない恋心を歌ったポップナンバー「可愛いミーナ」、枯れていく男の内省を吠えるロックンロール「真夜中のダンディー」とソロワークス35年の軌跡の中で生まれた楽曲たちを畳み掛けていく。ピアノのイントロから拍手が沸いた「明日晴れるかな」では、“明日が来ることを自分が信じて願うことこそが生きることの糧になる”という本楽曲に込められたメッセージが、なかなか未来に対して前向きになれない現代を生きるすべての人へのエールとして響き渡った。その後もオーセンティックな名バラード「いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)」、歌謡曲の華やかさを纏った「ダーリン」、タイトなバンドサウンドとホーンセクションが激しく絡み合う「NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~」と、ひと時も目が離せない圧巻のステージが凄まじい熱量で展開されていく。観客の手拍子を誘ったご当地ソング「東京音頭」を挟んで披露された「SMILE~晴れ渡る空のように~」では、入場時に観客全員に配布されたライトが点灯。ドームを埋め尽くした5万人の光が気持ち良さそうに揺れていた。

ここからは近年のライブではすっかり定番となっている各々ソロ回しをしながらのメンバー紹介へ。今年は原由子のレコーディングにも参加した曽我淳一(Key)をはじめ、インストゥルメンタルロックバンド、ザ・サーフコースターズの中重雄(Gt)、桑田とは40年を越える付き合いとなるお馴染みのメンバー 斉藤誠(Gt)や片山敦夫(Key)、そして角田俊介(Ba)など桑田が絶大な信頼を寄せるミュージシャンたちが面白おかしく紹介されていく。桑田が自身の著書の中でメンバー紹介のコーナーが一番好きと綴っていたが、個性豊かな各メンバーにツッコミを入れている桑田の表情はホントに楽しそうだ。個人的には河村“カースケ”智康(Dr)がハイハットを叩きながら「ラララ~ラララ ラララ~♪」と急にサザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」を歌い出したのは妙にツボってしまった。

ここで桑田が全面バックアップした原由子のオリジナルアルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』の宣伝もしっかり挟んで、アコースティックコーナーへ突入。アコースティックギターに持ち替えて1曲目に披露されたのは「」だった。原曲が持つシンプルな音像そのままにドームという巨大な空間を満たしていく。次に披露されたのはKUWATA BANDのデビュー曲であり、桑田がサザンオールスターズ のフロントマンとしての立場を初めて離れた「BAN BAN BAN」。アコースティックのイメージがない意外な選曲に会場からはどよめきが起こる。さらに、同コーナーでは打ち込みサウンドを前面に押し出した1stソロアルバム『Keisuke Kuwata』収録曲「Blue ~こんな夜には踊れない」も披露し、原曲とはまた異なるラテンのアレンジで会場を驚かせた。

ここのMCではソロ35周年を記念して11月23日にリリースされたベストアルバム『いつも何処かで』について触れ、同作より新曲2曲を披露。海風香るドリームポップバラッド「なぎさホテル」では、フロア全体がエメラルドグリーンの照明に照らされ、東京ドームが歌詞で描かれる“水のないプール”へと様変わり、何処かノスタルジックなサウンドの浮遊感が心地良い。今一番重たくて得難く、尊い意味を持った言葉をタイトルに冠したという「平和の街」では、第一線を走り続けるミュージシャン 桑田佳祐がここまでストレートな平和讃歌を新曲として届けている姿に思わずグッときてしまう。パワーポップ全開のシャッフルビートで5万人の大観衆を沸かせた。

ザ・ピーナッツや欧陽菲菲などのオマージュを詰め込んだ歌謡バラード「現代東京奇譚」、そして5thソロアルバム『がらくた』より文学的な筆致が光る「ほととぎす [杜鵑草]」を情感たっぷりに歌い上げ、いよいよライブは終盤戦へ。阿久悠や筒美京平など偉大な先達へのリスペクトが顕れた「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」では、間奏部分で“この道を行けばどうなるものか、迷わず行けよ、行けばわかるさ”とアントニオ猪木の名言を桑田が絶叫。歌謡曲からプロレスまで、桑田佳祐という人間を形成したルーツの集大成とも言えるこの1曲が持つエネルギーは圧巻のひと言。そのままソロデビュー曲「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」へと雪崩れ込み、イントロに合わせて銀テープが噴射。この日もサビでの大合唱は叶わなかったが、オーディエンスから溢れ出す熱気が、ステージへ注がれる熱い眼差しが、リリースから35年が経っても色褪せず、むしろ円熟味を増し続ける桑田佳祐のポップスの底力を証明していた。カオスティックな世界観が横溢する「ヨシ子さん」のライブ化けも相変わらず凄まじい。そして桑田に美空ひばりが憑依するという設定の寸劇を挟んでから、本人映像をバックに美空ひばりの名曲「真赤な太陽」をカバー。歌唱を無事に終えて「それでは帰るわね、バイバイ」と桑田がステージから捌けようとすると、ドラムのカウントから“波乗りの歌”こと「波乗りジョニー」へ突入。ソロワークス史上初のミリオンを達成した本楽曲でこの日一番のクラップを巻き起こし、本編を締めくくった。

これでライブが終了するはずはなく、再びメンバーがステージに登場してアンコールへ。どうやらアンコールは公演ごとに演奏曲を変えているようで、この日は「それでは聴いて下さい、あいみょんで“マリーゴールド”」という小ボケと挟みつつ、アイロニカルなロックチューン「ROCK AND ROLL HERO」をドロップ。さらに、中重雄のエッジの効いたギターアレンジによりロックテイストに仕上がった「銀河の星屑」、恋するすべての人達に贈られるウィンターソング「白い恋人達」を立て続けに披露し、ライブ終盤にも関わらず本編と変わらないどころか、よりいっそう熱量を増したソウルフルな歌声と演奏でオーディエンスを魅了した。2時間半超に及んだライブの最後を飾ったのは「腕利きの実力派メンバーの本領発揮の曲を」という桑田の意味深なフリから「100万年の幸せ!!」。てっきり生演奏かと思いきや、2番のパートからはメンバーが楽器からポンポンに持ち変えてフリフリとダンス。ラストのサビではメンバー全員がステージに横一列になって並び、ひとりひとりが持ったボードには、“みなさんいつもありがとう!!”、“また逢う日までお元気で!!”という文字が。10年前に開催された「DOCOMO presents 桑田佳祐 LIVE TOUR 2012 I LOVE YOU -now & forever-」でも同様のパフォーマンスがあったが、こういったいつの時代でも変わらぬサービス精神、惜しまぬ大衆への奉仕の姿勢こそが桑田佳祐という音楽人が愛され続ける所以なのだろう。ライブの最後、桑田は今年10月に79歳で亡くなったアントニオ猪木について語った。そして「僭越ながら皆さんといつものやつやっていいですか?」と投げ掛け、アントニオ猪木を偲んで「1、2、3、ダー!!」。割れんばかりの拍手に見送られながら桑田佳祐はステージを後にした。

ソロ活動35周年の祝祭と平和への希求、そして音楽人としての様々な想いと覚悟を感じるツアーだった。5大ドームを含む全国ツアーということで規模感こそ大きいものの、終始ライブの根幹にあったのは、冒頭で登場したような小ぢんまりとしたバーで何気なく交わされる「お互い元気に頑張りましょう」というシンプルな励まし合いだったような気がする。今年は持続可能な目標を宣言した“SKGs”と共にソロ活動35周年イヤーをキックオフした桑田。夏には自身の新型コロナウイルス感染により大型ロックフェスへの出演がキャンセル(後に台風の影響で開催自体が中止)になるなど辛酸も嘗めたが、今回のツアーでそのリベンジも果たせたのではないか。そんな桑田は本日12月31日に横浜アリーナにてツアーの追加公演を年越しライブとして開催。加えて「第73回NHK紅白歌合戦」には特別企画で出場し、佐野元春、世良公則、Char、野口五郎、そして大友康平、原由子、ハマ・オカモトと共に「時代遅れのRock'n'Roll Band」を披露する。相変わらずのワーカホリックぶりには心配も過るが、桑田佳祐の音楽がいつも何処かで鳴り続けてる幸福を今は噛み締めていたい。(やまだ)




桑田佳祐 LIVE TOUR 2022「お互い元気に頑張りましょう!!」supported by SOMPOグループ


2022.12.10 (Sat.) 東京ドーム

01. こんな僕で良かったら
02. 若い広場
03. 炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]
04. MERRY X'MAS IN SUMMER
05. 可愛いミーナ
06. 真夜中のダンディー
07. 明日晴れるかな
08. いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)
09. ダーリン
10. NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~
11. 東京音頭
12. SMILE~晴れ渡る空のように~
13. 鏡
14. BAN BAN BAN
15. Blue ~こんな夜には踊れない
16. なぎさホテル
17. 平和の街
18. 現代東京奇譚
19. ほととぎす [杜鵑草]
20. Soulコブラツイスト~魂の悶絶
21. 悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
22. ヨシ子さん
23. 真赤な太陽
24. 波乗りジョニー
En1. ROCK AND ROLL HERO
En2. 銀河の星屑
En3. 白い恋人達
En4. 100万年の幸せ!!