桑田佳祐の新曲「平和の街」が、TOKYO FMにて放送中のレギュラー番組「桑田佳祐のやさしい夜遊び」4月16日の放送回で初オンエアされた。自身がサラリーマン役として出演するSOMPOホールディングス・損保ジャパンの2022年度新TVCMのために書き下ろされた本楽曲は、桑田が“洋楽ファン妄想、妄想の産物”と語っているように、全体的に70年代のパワーポップを彷彿とさせる明るいサウンドで、春の陽気に包まれる街中を闊歩するような弾けるアンサンブルが印象的なナンバーに仕上がっている。
桑田がSOMPOグループのブランドパートナーに起用されたのは2年前、まさに世界が新型コロナウイルスの混乱に包まれていた時期。桑田はSOMPOグループのCMソングとして、鈴木常吉の「思ひで」からインスパイアされたフォーク調のサウンドとボーカリゼーションが特徴的な「金目鯛の煮つけ」を書き下ろした。コロナ禍で厳しい環境にある現在だからこそ、何気ない日常のささやかな幸せに感謝するこの曲は、2021年にリリースされた自身初のEP作品『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』にコンパイルされ、多くの人に行き届いたのは記憶に新しい。
このたび書き下ろされた新曲「平和の街」は、そんな昭和の哀愁が漂う「金目鯛の煮つけ」から一転し、弾けるようなポップ調の楽曲となっているわけだが、その歌詞にフォーカスすると《己の魂さえも/失ったみたいに/やがて目の前が/暗くなる時もある》、《何故!?/Oh 神様!!/助けてよ/人生の旅はまるで雨の Highway/明日を憂い》など内省的なフレーズも目立つ。しかし、2番サビでは《「名もなき花」なんて無いからね/どんなに小さな花びらの奥にだって/命が宿る/負けないで Baby‼》と桑田らしい歌詞が綴られ、“今日という日を、楽しむために。”というタイアップCMのキャッチコピーにも通じる非常に前向きなメッセージを高らかに歌い上げている。
しかし、本楽曲がただ今この時代を前向きな気持ちで生きることの大切さを説く曲ではないことは“平和の街”というタイトルを見れば明白だ。「最近、毎日のように報道を観ていまして、平和や協調みたいな言葉が思わず出てきたわけなんですけど、あらためて考えると、今一番重たくて得難く、尊い意味を持った言葉だと思います」このタイトルについて桑田は自身のラジオでそう語っていた。そこには昨今の緊迫した社会情勢のみならず、桑田が想いを寄せ続ける東北や、未だに終息が見えないコロナ禍への意識があることは想像に難くない。「金目鯛の煮つけ」で歌われていた何気ない日常そのものが、人知を越えた力で、誰かの圧倒的な理不尽で、青天の霹靂のごとく奪われてしまうことを僕らは身をもって知っている。だからこそ、本楽曲で歌われる《僕が役に立てる事は何だい?》という歌詞は単なる桑田の自問自答に留まらない。この曲を享受した瞬間、僕ら1人1人にも同じ命題が課せられているのである。(やまだ)
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