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Mr.Childrenがデビュー30周年を記念して4月から開催している全国ツアー「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」。4月23日の福岡PayPayドームを皮切りに、全国のドームおよびスタジアム6会場で12公演の開催がアナウンスされている。“30周年は単なる入り口でしかない“というバンドの強い想いが込められた今回のツアータイトルも実にシンボリックだが、ツアーの詳細が発表された際に桜井和寿が寄せたコメントでも「これは凄いことになります!」と、未だかつてないほどに強い意気込みが語られていた。また、Mr.Childrenは今回の大規模なツアーに向けて先月4月8日、9日に東京ガーデンシアターにてオフィシャルファンクラブ「FATHER&MOTHER」の会員を対象としたプレライブも開催。このプレライブについては当ブログでもライブレポートを掲載しているので、宜しければ本稿と併せてそちらもチェックしてほしい。

そして、このたび本ツアーの東京公演が5月10日と11日に東京ドームにて開催され、その2日目に当たる5月11日の公演に行ってきた。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から会場内でのマスク着用、歓声の禁止など様々な制約を伴う環境でのライブとはなったが、彼らの30周年を祝福しようと多くのリスナーが会場へ駆け付けた。本稿では、そんな公演の模様をライブレポートとして届ける。しかしながらメンバーのMCが意訳になってしまう点や、どうしても演出の描写が曖昧になってしまう場面は割愛しているので、ご了承いただきたい。またライブレポの性質上、ネタバレを含む内容となるためセットリスト/演出などを知りたくない人はここでページを閉じることをお勧めする。


2022年5月11日、東京ドーム。同日にデビュー30周年を記念したベスト盤『Mr.Children 2011-2015』と『Mr.Children 2015-2021 & NOW』をリリースしたMr.Childrenが、約5万人を収容するこの会場でワンマンライブを行う。開演予定時間の18時を10分ほど過ぎたころ会場の照明が消灯。いよいよライブが幕を開ける。前方のメインステージにいくつも設置された巨大スクリーンにまず映し出されたのは、何処かの森を彷徨うふたりの男女、そしてぽつんと佇む回転ドア。この回転ドアに導かれるようにふたりの男女は出会い、数々のエントランスが積み重なって構成された通称“エントランス・タワー”へと迷い込んでいく。この映像の一部は、最新ベスト盤のリリースに向けたスペシャルトレーラーでも使用されていたが、ふたりの男女が抱擁するシルエットはアルバム『SUPERMARKET FANTASY』のジャケット写真を、ガラスを挟んで向き合う男女の構図は「君が好き」のミュージックビデオを彷彿とさせる。今回のこの男女のモチーフを手掛けたのは、これまでMr.Childrenの数々の作品のビジュアルを担当してきた森本千絵。ふたりの男女がコロナ禍を経て、この30周年という場所で再び出会い、音楽と共に生きていく姿が表現されており、まさにこの空間に於けるバンドとファンの関係性そのものだと気付かされる。そして映像では、壮麗なストリングスのSEと共にMr.Childrenがデビューから今日に至るまで発表してきたCD作品のジャケット写真やミュージックビデオ、ライブ映像といった膨大なアーカイブが滔々と映し出され、それらが回転ドア(エントランス)へと集約されていく───。

1曲目を飾った「Brand new planet」では、カラフルなジャケットを身にまとった桜井和寿(Vo)をはじめ、田原健一(Gt)、中川敬輔(Ba)、鈴木秀哉(Dr)、サポートとしてツアーに帯同するSUNNY(Key/Vo)の5人の姿を確認したオーディエンスから盛大な拍手と共に思わず歓喜の声が漏れ出す。《立ち止まったら そこで何か/終わってしまうって走り続けた》という歌い出しが、バンドの歩みを凝縮したオープニング映像と重なりつつも、サビでの《新しい「欲しい」まで もうすぐ》という歌詞では、ツアータイトルの通り“半世紀へのエントランス”に立った彼らの希望を感じさせる。「覚えてますかこの感じ!みんなとの“再会”、そしてこのライブの“再開”を待ってました!さぁここから始めるよ!僕らがMr.Childrenです!」というアコースティックギターを肩から下げ、青いシャツに着替えた桜井の開幕宣言から「youthful days」へ突入すると、メンバー全員が50歳を超えていることなど忘れてしまうほど若々しく、ハツラツとしたアンサンブルが鳴らされる。その後も骨太なエイトビートロック「海にて、心は裸になりたがる」、そして当時にライブを意識してクリエイトされた「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」といった盛り上がり必至のナンバーを立て続けに披露し、東京ドームという巨大な空間を一気に凌駕していく。Mr.Childrenとファンの記憶と愛情、そして一緒の思い出を沢山吸い込んだ楽曲として演奏された「innocent world」では、この歌を一緒に上書きして欲しいという桜井の要望に会場は全力のクラップで応えた。

冒頭から5曲がほぼノンストップで演奏されてきたが、ここで一旦MCへ。「どうもありがとう!最高!東京ドーム!この会場で31年目最初のライブができて本当に幸せです!声を出せない、歌えないというのは僕らにとっても残念で、みなさんの声が聞けることを想定して選曲してたので。お互い歯痒い気持ちはありますが、その分僕らが全身全霊で演奏していくので最後まで楽しんでってください」と場内が祝福のムードに包まれるなか桜井が挨拶をした。

「次に演奏する曲ですが、好きな人いっぱいいると思います。僕らがデビューしたばかりの頃に作った曲です。初々しくて図々しい恋の曲をお届けします」という桜井の振りで初期のラブソング「Over」が披露される。そう言えば本公演の開演前に会場BGMで、この楽曲に影響を与えたギルバート・オサリバンの「Alone Again」が流れていたことをふと思い出す。続けて演奏された「Any」では、そのピアノのイントロに会場からはどよめきが起こった。実はこの曲は、田原の発案からコロナ禍に再スタートした公式ファンクラブ「FATHER&MOTHER」のインターネットラジオ番組「誰も得しないラジオ(仮)」にて、ファンからのリクエストが多かった楽曲のひとつでもある。20年前に発表されたこの曲が、これだけ多くの人々に今も必要とされていることに胸が熱くなる。「今聴いてもらった「Any」の歌詞に“今 僕のいる場所が 探してたのと違っても間違いじゃない きっと答えは一つじゃない”とありますけど、まさか全員がマスクをしなきゃいけない、声を出せないライブをする日が来るなんて望んでなかったんだけど、でもこうしてやってみると……拍手ってすごいよ。こんなに拍手に表情があるのだと思い知らされました」と演奏後に桜井は語った。コロナウイルスの影響で一時は停滞したライブシーン。彼らも当初はオリジナルアルバム『SOUNDTRACKS』を引っ提げてのツアーを予定していたが発表前の段階で中止を余儀なくされた。そういった紆余曲折を経て実現した今回のドーム&スタジアムツアー、未だに終息の見えないコロナ禍で様々な制約を伴う環境での開催とはなったが、これも間違いじゃない、きっと答えはひとつじゃない。

続けてメンバーはメインステージの中央から伸びる花道を通って、会場の中央に設置された小さなセンターステージへ移動。鈴木は移動中に会場から手拍子を交えながら観客を煽っていく。このセンターステージでは、桜井によるギターの弾き語りからバンドが合流していくアレンジで「くるみ」、そして「僕らの音」の2曲を披露。これまでの派手なステージングから一転して、シンプルなアレンジと演出で、オーディエンスとの距離をぐっと縮めていく。

メンバーがメインステージに戻ってから最初に演奏されたのは「タガタメ」だった。背景のスクリーンいっぱいに映し出されるのは、コロナウイルス、紛争、戦争、シュプレヒコールに集う人々など昨今の混沌とした世界情勢。この「タガタメ」という楽曲は、その当時に桜井がニュース番組を観ていたときに書かれたものだ。それ故に歌詞ではインパクトの強いフレーズが使われているが、桜井和寿という人間がそうであるように、この曲も何か特別な社会的、政治的なメッセージを掲げるようなプロテストソングでは決してない。寧ろそういった主義主張から最も離れたシンプルな祈りのようなものだ。《子供らを被害者に 加害者にもせずに/この街で暮らすため まず何をすべきだろう?》今この楽曲を届けた意味を会場にいた誰もが噛み締めていたのではないだろうか。何も起こらないありきたりな日常を慈しむ楽曲「Documentary film」も続けて披露され、その儚くも壮大なサウンドに会場は聴き入った。

ここからライブ本編も終盤へと近づいていく。スクリーンに映る奇妙なアニメーションと不穏なバンドサウンドが独特な空気感を演出した「DANCING SHOES」を筆頭に、中川のベースラインが激しくうねる「ロックンロールは生きている」、田原の切れ味が鋭いスライドギターが炸裂する「ニシエヒガシエ」、鈴木の重く跳ねるドラミングで圧倒する「Worlds end」といった激しいアッパーチューンを間髪入れずに披露。「ニシエヒガシエ」ではファイヤーボールメーカーの特効が用いられ、派手な演出でオーディエンスを沸かせた。「この曲もみなさんの思い出や愛情をいっぱいいっぱい吸い込んで大きい歌になってほしいと願いながらお届けします」という桜井の前置きから演奏されたのは、中島健人が主演を務めたNetflix映画『桜のような僕の恋人』の主題歌として書き下ろされた新曲「永遠」。スクリーンに映し出された満開の桜の木が、まるで彼らが奏でる美しくも切ないメロディに揺れているようだった。そんな「永遠」から一転し、その後に披露された「others」では円熟した大人のラブソングをしっとりと歌い上げ、大ヒット曲「Tomorrow never knows」で会場を魅了した。

「さぁ〜まだまだやるかぁ〜!?東京ドーム!」という桜井の煽りから「fanfare」、そして「エソラ」 を続けて披露。「エソラ」のラストでは、カラフルな銀テープがステージから噴射し、Mr.Childrenの30周年を華やかに彩った。そして本編ラストでは「握りしめてきた曲を聴いていただきたいと、受け取ってもらいたいと思います」という桜井のMCから「GIFT」が演奏された。Mr.Childrenからファンへ、そしてファンからMr.Childrenへ、30年分の感謝が込められた最高のギフトとしてこの曲が響き渡り、デビュー30周年を記念した彼らのライブは大団円を迎えた。

アンコールを待ち侘びる会場からの鳴り止まない手拍子に応え、メインステージに現れたのは桜井ひとり。「ひとりだけのMr.Childrenです!(笑)ひとりで「Your Song」をという曲を演奏したいと思います」と桜井はアコースティックギター1本の弾き語りでこの楽曲を歌い始めた。桜井はこれまでバンドとファンが共に重ねてきた日々を包み込むような歌声で言葉を繋げていく。圧巻だったのはラストの「ウォーオー」という咆哮。アコースティックギター1本とボーカルのみという誤魔化しが利かない状態で(しかもアンコールで)伸びやかなのロングトーンを繰り返し響かせた。ここで他のメンバーもステージに登場し、それぞれのメンバーがファンとライブのために尽力した数え切れないスタッフたちに向けて感謝の言葉を述べた。そして約3時間にも及んだアニバーサリーライブの最後に演奏されたのは最新曲「生きろ」だった。本ツアーの前哨戦とも言えるプレライブのレポートでも書いたと思うが、Mr.Childrenはキャリアの大きな節目となるライブの最後をいつも最新曲で締めてきた。そこには、どれだけキャリアを重ねても“今”のMr.Childrenを鳴らすというミュージシャンとしての揺るぎない矜持がある。《またひとつ 強くなる/失くしたものの分まで/思いきり笑える/その日が来るまで/生きろ》そんなフレーズも、半世紀へと続く雄大な大地への一歩を踏み出したMr.Childrenの“今”を歌っているようだった。

1992年にミニアルバム『EVERYTHING』でメジャーデビューして以降、移りゆく時代のなかで日本音楽シーンの第一線を走り続けてきたMr.Children。彼らは30年の紆余曲折の中で“ポップザウルス”(POPSAURUS)と題した大規模なツアーを2001年と2012年に開催し、バンドの方向性を提示してきた。それは、Mr.Childrenというポップの巨大なモンスターが、ポップであることを最大限に受け入れてポジティヴに昇華していくというアティテュードのようなものだった。しかし、デビュー30周年を記念した今回のツアーでは“ポップザウルス”というMr.Childrenの代名詞がタイトルとして冠されることはなかった。いったい何故なのか。

Mr.Childrenがメジャーデビュー20周年を迎えた際に行われたとあるインタビューの中で桜井はこんなことを語っていた。「この“POPSAURUSツアー”というのはベストアルバムと色合いが似ていて、こちら側からのメッセージはそんなに無い。だからこそ昔の曲を演奏するのも今回は出来るだけ、その曲を聴いてその時代を生きてくれたお客さんのイメージを損なわないようにっていう気持ちがあったんですよ」と。一方で今回のツアーの根底には「過去の楽曲群を“今”の曲としてアップデートする」という意識があったように思える。それは従来の“ポップザウルス”とは一線を画す。「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」は単なる過去の総括ではない。それらすべてを引っ提げて半世紀へと前進していくバンドの“今”を照らすツアーなのだ。そしていろんな人の命を乗せて、夢を乗せて、明日を乗せてMr.Childrenの旅は続いていく。(やまだ)

Photo by @osamiyabuta2





「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」


2022.05.11 (Wed.) 東京ドーム

01. Brand new planet
02. youthful days
03. 海にて、心は裸になりたがる
04. シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~
05. innocent world
06. Over
07. Any
08. くるみ
09. 僕らの音
10. タガタメ
11. Documentary film
12. DANCING SHOES
13. ロックンロールは生きている
14. ニシエヒガシエ
15. Worlds end
16. 永遠
17. others
18. Tomorrow never knows
19. fanfare
20. エソラ
21. GIFT
En1. Your Song(弾き語り)
En2. 生きろ