RADWIMPSにとって2年ぶりの全国ツアー『FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022』が昨年2021年12月4日のぴあアリーナMM公演を皮切りにスタートし、先日1月30日の宮城セキスイハイムスーパーアリーナ公演をもってファイナルを迎えた。昨年11月にリリースされた彼らにとって通算10枚目のオリジナルアルバム『FOREVER DAZE』を引っ提げて全国6ヶ所を巡る本ツアーは、コロナウイルスの感染拡大を受け、参加者全員のマスクの着用は勿論のこと入場時の検温とアルコール消毒、会場スタッフのフェイスシールドの着用など徹底した感染症対策のもとで行われた。
そんな平時とはまったく異なる環境でのツアー。だが今回のツアーに於いて本当に特筆すべきはそこではなく、ギター 桑原彰のスキャンダル報道による活動休止(なにしてんねん!)と、それに伴うバンドの新体制だ。一時はツアー開催自体も危ぶまれたというが、Suchmosのメンバーであり、ソロとしての活躍もTAIKINGと、2019年7月に解散したバンド ねごとのメンバーであり、現在は音楽プロジェクト miidaで活動するマスダミズキがサポートとして参加。野田洋次郎(Vo/Gt/Pf)、武田祐介(Ba)、TAIKING(Gt)、マスダミズキ(Gt)、森瑞希(Dr)、エノマサフミ(Dr)という6人体制で挑むツアーとなった。野田とはお互いが10代のころからがっぷり四つで音楽人生を共にしてきた桑原彰が不在のRADWIMPS。それ故に、一抹の不安を抱えながらライブ当日を迎えたファンも少なくなかっただろう。本稿では、そんな世界にとってもバンドにとっても様々な変化の中で行われた全国ツアーの幕張メッセ公演(1月9日)の模様を覚えている範囲でレポートする。メンバーのMCが意訳になってしまう点や、どうしても描写が曖昧になってしまう場面は割愛しているので、ご了承いただきたい。
2022年1月9日、千葉 幕張メッセ国際展示場9-11ホール。開演予定時間を10分ほど過ぎ、会場の照明が消灯。エレクトロニックなSEと共にバックスクリーンに“RADWIMPS”の文字が大きく映し出される。会場からの盛大な手拍子に迎えられながらメンバーがステージに登場。1曲目に演奏されたのは、ニューアルバム『FOREVER DAZE』よりリード曲「TWILIGHT」。当初、アルバムの1曲目として配置されていたという本楽曲が、確かな必然性を持って素晴らしい一夜の始まりを高らかに告げる。「飛べるかい幕張!」という野田洋次郎の煽りと共に、レーザー光線が激しく飛び交い、サイドチェイン・コンプレッサーが醸成するうねりが会場を包んでいく。続けて演奏された「桃源郷」では、代表曲「前前前世」系譜のストレートなバンドサウンドを掻き鳴らした。2013年にリリースされたシングル曲「ドリーマーズ・ハイ」に突入すると、野田はハンドマイクで本楽曲を歌唱。マスダミズキとのツインボーカルや楽曲終盤の銀打ちで会場に集まった15,000人のファンを驚かせた。
「こんばんは、RADWIMPSです。新年明けましておめでとうございます。昨日はどんな神社に行くよりも御利益がありそうな日だったんだけど、人っていうのは欲張りなもんで、今日はさらにその高みに行こうと思うんですけど、みなさん準備は宜しいですか?」、「基本的に発声や歓声や禁止として、でもどうしても溢れ出ちゃう声は、スポーツの試合と一緒で出しても良いというガイドラインなので、それぞれのルールを守って楽しみましょう。今日は最後まで宜しくお願いします」という野田による新年の挨拶を交えたMCにファンは盛大な拍手で応えた。
大聖堂を彷彿とさせるパイプオルガンのようなサウンドが印象的な「海馬」では、原曲で完全に打ち込んでいたピアノを、野田がアレンジを施して生演奏で披露。人体が複雑に絡み合う奇妙な映像演出も相まって楽曲の世界観に惹き込まれてしまう。その後も、ヒップホップとロックバンドの接着地点を模索した「カタルシスト」、タフネスなバンドサウンドが炸裂する「DARMA GRAND PRIX」、幻想的なデジタルクワイヤから始まる「MAKAFUKA」と、各年代の実験作とも言える“攻めた”ラインナップが次々に披露されていく。俳優/歌手として活動する菅田将暉を客演に迎えた「うたかた歌」では、野田が一言一言を噛み締めるように全パートを1人で歌唱。TAIKINGのブルージーなギターソロが間奏で挿入されたのだが、これが抜群に渋かった。
ここで武田によるMCタイムへ。「こんばんは、ベースの武田です。明けましておめでとうございます。年始にライブをするっていうのがRADとしても珍しくて、ホームページで見たところ、なんとデビューから1月に一度もライブしてませんでした。RADとしては新しいスタートが切れてるようで、今年は良い年になりそうです。ありがとう」その流れでサポートドラマーのふたりを緩い小ネタを挟みながら紹介すると、「このなんとも言えない武田のMCの温度感が好きなんです」と野田が合いの手を入れる。「なんとも言えなかった?」と不思議そうな顔をする武田に「なんとも言えない温度感なんだよね。いや、これなんとも言えないから、なんとも言えないんだよ(笑)」と野田が返す。その後も武田とTAIKINGの子どもトークに野田が入っていけない話など緩いトークが交わされた。
ここから中盤戦。「2022年を思う存分、自分自身を使い切るという意味でも準備はできてますか?2022年のお前らのダダッ子っぷりを見せてみろや!」という野田の煽りから「DADA」が始まると、先程までの緩い空気感は一変、膨大な言葉数と強靭なサウンドを惜しげもなく畳み掛けていく。そして一気に高まった会場のボルテージを保ったままライブ定番曲「おしゃかしゃま」へ。エノマサフミと森瑞希によるドラミングの応酬から始まった各楽器隊のソロ回しでは、花道を経由して武田、TAIKING、マスダミズキの3人がセンターステージへ移動。TAIKINGが(恐らく)アドリブでDeep Purple「Smoke On The Water」のリフを掻き鳴らすと、これには思わずオーディエンスから感嘆の声が漏れる。そんなアドリブにもフレキシブルに対応するマスダ、お得意のスラップの手数で圧倒する武田。新体制とは思えないほど息の合ったパフォーマンス、いや、新体制だからこそ生まれた自由度でファンを魅了した。その次に演奏された「セツナレンサ」でも、バンドは緻密なアンサンブルを披露。生ギターのリフと無機質な打ち込みがループする「匿名希望」では、緑色のレーザー光線がセンターステージに移動した野田をゲージのように覆い隠し、そのままステージが2メートルほど上昇。客席からは十分に野田の姿形を確認することができなかったが、それでも彼は構わず鋭いリリックで人間の暗部に切り込んでいく。その歪んだ不敵さが現代に蔓延る“匿名性”そのものであった。
「やばい、曲数が少なくなってきている。終わりたくないけど、終わりに向かわないと進めないっていう凄い不思議なことで、このライブもそうだし、僕らの一生もそうだし。どうせ進んで終わりに向かうんだったら、思いっきり愛しい時間を過ごしましょう」という野田の言葉から演奏されたのは「NEVER EVER ENDER」。普段はコール&レスポンスを交わすこの曲も決して一緒に歌うことはできないが、野田はマイクを観客に向けてオーディエンスから何かを感じているようだった。マイクの前で何度か呼吸を整えて歌い出された「トアルハルノヒ」では、《ロックバンドなんてもんを やっていてよかった/間違ってなんかいない そんなふうに今はただ思えるよ》というフレーズに会場からはこの日一番の拍手が巻き起こった。作詞作曲、ミックスやマスタリングのみならず、CDデザインや映像編集なども1人で熟すミュージシャンの台頭が著しい昨今、野田のインタビュー記事を読んでいるとこんな言葉を目にすることが多くなった。“今僕が音楽を始めるってなったらバンドは選ばない”。だがその後に必ずこう付け足すのだ。“僕はやっぱりバンドを選んでよかったと思ってる”と。
RADWIMPSがメジャーデビューを果たして16年。彼らが歩んできた16年という道のりは、ありきたりな表現になってしまうが決して平坦なものではなかった。野田にとって掛け替えのない存在であった恋人との別れ、精神を擦り減らすレコーディングの中でメンバー間に生じた亀裂、それによる活動の停滞、大震災の混乱、山口智史(Dr)の持病悪化による活動休止。そしてインディーズ時代からのメンバーである桑原彰の活動休止。どれだけバンドが存続の危機に晒されようと、彼らはロックバンドを、RADWIMPSであることを選択し続けた。この「トアルハルノヒ」は、先述した山口智史のバンド離脱という大事件を超克した先で、野田が初めてバンドとして歩んできた10余年の日々を真っ直ぐに肯定した曲だ。このツアーで歌われた「トアルハルノヒ」は、言うまでもなく“ロックバンド”を続けていくという強い覚悟の揺り戻し。感動的なパフォーマンスだった。
ここで野田は自身が生まれ育った“東京”という街への想いをおもむろに語り始めた。野田にとって生まれ育った東京という街は友達のようで、でもいざ語るとなると恥ずかしくて今まで敢えて避けてきたテーマであった。「大きな拍手でお迎え下さい、iri」という野田の紹介でシンガーソングライター iriが登場し「Tokyo feat.iri」を披露した。iriの歌声は何処かジェンダーレスな、それでいて力強い響きを持っている。特別な存在だけど特別とは呼びたくない間柄、それ故に“東京”を歌うことを逡巡していた野田を前進させたその唯一無二の歌声、メロウなサウンドに会場は酔いしれた。歌唱後に「胸いっぱいですよ。また洋次郎さんと一緒に歌えることを願ってます」と感慨深そうな表情を浮かべたiriは、野田と抱擁を交わしステージを去っていった。
続けて演奏されたのはYENTOWNのメンバーであるAwichを客演に迎えた「SHIWAKUCHA feat.Awich」。1番のサビを歌い終えた野田の紹介によって、センターステージにいきなり登場したAwichにスポートライトが当てられる。その凄まじい存在感と歌声でオーディエンスを巻き込んでいく。とあるインタビューで野田は「全国民がAwichの虜になるべき」と彼女のことを絶賛していたが、間違いなく会場にいた誰もが、この瞬間Awichの虜になっていただろう。この楽曲の根底に燻る“激情”を体現したステージング。パフォーマンスを終えたAwichは「こんなに素晴らしいアルバム、ツアーに参加させていただいてありがとうございます!大好きです!」と感謝を述べてステージを後にした。
サプライズゲスト登場の興奮も冷めやらぬなか、演奏されたライブ定番曲「いいんですか?」では、この日1番のクラップを誘い、楽器隊も楽しそうにステージを歩き回りながら演奏。「愛してるよ!」という野田の言葉にファンは拍手で応えた。ピアノの前に腰を下ろして野田は「数十年しか生きてないけど、生きてるとしんどいことがいっぱいあって。もう無理だな、やってられないな、投げ出したほうがずっと楽なんじゃないかと思うようなことが何回か訪れて。それでも俺は明日を選んで生きていて。それがなんでなのかよくわからないけど、それがなぜなのか知りたいがために歌を作っていて。今回のアルバムもそんな感じで作っていたんだろうなと思います。誰かに与えられた正解じゃやっぱりダメで、自分が生きてる意味をちゃんと自分で見つけたい。これからもそんなふうに歌を作っていきます。それが何かしらのヒントになったらとても嬉しいです」と語り、演奏されたのは「鋼の羽根」だった。コロナウイルスによって鬱々としたなかで、“ここから少しでも光に向かっていけるような作品”を目指して制作された本楽曲。そんな楽曲に込められた直向きな希望が、同じ時代を生きる15,000人の同志に届けられた。本編最後を飾ったのは、ニューアルバムのラストに収録された「SUMMER DAZE 2021」。会場に吊るされたミラーボールの燦々とした輝きと、煌びやかに舞う紙吹雪を浴びながら、バンドメンバーとファンが気持ち良さそうに身体を揺らす。幕張メッセという空間全体が多幸感で満ち溢れていた。
本編終了後は会場からの手拍子に応えてメンバーがステージに再登場。まだ今回のツアーで1回もやってないという「棒人間」でアンコールをスタートさせる。映画『君の名は。』の劇伴で制作された「三葉のテーマ」をアドリブでキメた野田はそのまま「スパークル [original ver.]」へ。だがここでとあるアクシデントが発生。その一部始終はオフィシャルのライブレポートでも伏せられているので、申し訳ないがここでも記載は控えさせていただこう。演奏を終えた野田は、今回のライブ開催にあたって尽力した多くのスタッフへの感謝を述べ、会場からも温かい拍手が送られた。「1年の願掛けと言いますか俺から皆さんへの“大吉”的な1曲をお送りします」という野田の言葉から演奏されたアッパーチューン「君と羊と青」でライブは幕を下ろした。
RADWIMPSが今回のツアーより前に幕張メッセで単独ライブを開催したのは約6年前のこと。「RADWIMPSのはじまりはじまり」と題されたそのライブは、メジャー10周年の集大成であると同時に、バンドにとって新たな物語の幕開けでもあった。あれから6年が経った今、世界の様相もバンドの体制も変わったが、RADWIMPSはあの日の延長線上を今も走り続けている。人生というのは決して予定通りには動いてくれない。蓋を開けてみれば、現実はどんな物語よりも残酷で、容赦なく僕らを苦しめてたりする。そういった人知を超えた運命に翻弄されながらも、振り回されながらも、永遠の揺らめきの中を自分らしく美しく舞っていたいという想いが「FOREVER DAZE」というアルバムタイトルには込められている。今回のアルバムツアーは、まさにそんなアルバムに込められた想いを、強い覚悟として昇華したものだった。なお、RADWIMPSは3月4日に劇伴を担当した映画『余命10年』の公開と、併せて全30曲を収録した同映画のオリジナルサウンドトラックの発売を控えている。彼らの2022年はまだ始まったばかりだ。(やまだ)
Photo by Takeshi Yao
RADWIMPS「FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022」
2022.01.09 (Sun.) 幕張メッセ国際展示場9-11ホール
01. TWILIGHT
02. 桃源郷
03. ドリーマーズ・ハイ
04. 海馬
05. カタルシスト
06. DARMA GRAND PRIX
07. MAKAFUKA
08. うたかた歌
09. DADA
10. おしゃかしゃま
11. セツナレンサ
12. 匿名希望
13. NEVER EVER ENDER
14. トアルハルノヒ
15. Tokyo feat.iri
16. SHIWAKUCHA feat.Awich
17. いいんですか?
18. 鋼の羽根
19. SUMMER DAZE 2021
En1. 棒人間
En2. スパークル [original ver.]
En3. 君と羊と青
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