アルバム『FOREVER DAZE』を引っ提げた2年ぶりの全国ツアーを成功裏に収め、今年3月には初めて実写映画の劇中音楽を手掛けた「余命10年」のオリジナルサウンドトラック発売など、アグレッシブな活動を続けるRADWIMPSから、配信リリースという形で新曲「人間ごっこ」が届けられた。有村架純と中村倫也がダブル主演を務めるTBS金曜ドラマ「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」の主題歌として書き下ろされた本曲は、ドラマのコンセプトに共感した野田洋次郎(Vo/Gt/Pf)が台本を熟読し、演出を担当する塚原あゆ子や、プロデューサーの新井順子らと打ち合わせを重ねて制作した楽曲である。
“人間ごっこ”というストレート且つアイロニカルな楽曲名からは強烈な“らしさ”が窺えるが、静と動を行き来するスリリングな楽曲の展開も“らしさ”全開だ。またアルバムに先駆け2021年7月に配信リリースされた「TWILIGHT」を見事に踏襲したサウンドメイクも看過できない。「TWILIGHT」以上に強いオートチューンがかけられたボーカルと、いっそう洗練されたサイドチェインからは、EDM/DTMへの傾倒を強めるバンドの今を充分に汲み取ることができ、全体を通して非常に聴き応えのある楽曲に仕上がっている。
RADWIMPSにとって“人間”とは切っても切れない永遠のテーマと言っても過言ではない。それほどまで野田洋次郎は常に人間と対峙し続けたミュージシャンであり、ドラスティックな筆勢で社会、そして世界の輪郭を捉えてきた。そして今回の新曲も“人間ごっこ”というタイトルや眼球をモチーフにしたジャケットから、炯眼をもって人間社会に切り込む楽曲かと思っていたが一聴したときは驚かされた。極めてパーソナルな人間讃歌だったからだ。人間讃歌と聞いて思い出すのが2016年リリースのアルバム『人間開花』収録の楽曲「棒人間」。アルバム名に象徴されるように野田が初めて人間に対しての肯定感をストレートに表現した作品だったが、同曲では人間という条件を満たせないまま人間のフリをして生きる諦観と、それでも人間でありたいという憧れが綴られていた。そういう点で「棒人間」は野田洋次郎の人生観が色濃く反映された人間讃歌だったと思う。
こういった人間としての条件を満たせずに物真似をしながら生きるという、ある種の劣等感は「人間ごっこ」にも通底するが不思議とネガティブな印象は受けない。むしろ本曲に内在するのは、不条理な世界を悲観せずに最大限に引き受けて、それでも生きようとするポジティブな衝動だ。これは自分だけの正解を持って生きる『ANTI ANTI GENERATION』と数奇な運命に振り回されながらも美しく生きていこうとする『FOREVER DAZE』という2枚のアルバムを通してRADWIMPSが獲得した新たな“生”への肯定力である。きっとこの世界に生きる誰もがそれぞれのコンプレックスを抱え、それをひた隠しながら生きている。どうしても届かないものへの諦念と、どうしても捨て切れない憧憬を抱えながら人生ごっこを続けている。そんな誰も知らない、知ることのなかった微かな摩擦をRADWIMPSの「人間ごっこ」は圧倒的な光量で包み込んでくれている。(やまだ)
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