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 2019年に公開された新海誠監督の長編アニメーション映画『天気の子』。劇中で流れる全ての劇伴音楽をロックバンドであるRADWIMPSが担当した今作は1000万人の観客を動員し、興行収入は141億円を突破するという、この年No. 1の紛れもない大ヒット作品となった。だが両者が初めてタッグを組んだ2016年公開の前作『君の名は。』と比較すると『天気の子』がRADWIMPSに齎した影響というのは見え難い。新海監督から野田洋次郎 (Vo.&Gt.&Piano.) の元に今作の初稿が送られてきた2017年の8月から映画公開に至るまで、このバンドのマインドは常に『天気の子』と共にあった。更に言えば今作で野田洋次郎は音楽だけではなくストーリーのディレクションにも参加するという前作以上の蜜月を見せており、今作の世界最速上映会に登壇した際には想いを語りながら感極まり涙した。それ程までに心血を注いだ『天気の子』の制作はRADWIMPSにいったい何を齎したのだろうか。

 先述した映画『天気の子』の影響が見え難い理由として考えられるのが『君の名は。』の存在である。社会現象ともなった『君の名は。』の影響は本当に凄まじかった。日本国内の興行収入250.3億円を叩き出し、サウンドトラックアルバム『君の名は。』と11月にリリースされたオリジナルアルバム『人間開花』はオリコン首位を獲得。また主題歌として書き下ろされた「前前前世」はYouTubeで億単位再生され、この曲を引っ提げて彼等は地上波に初出演、年末にはNHK紅白歌合戦への初出場も果たした。このように『君の名は。』の影響というのは数字で、肉眼で、誰もが容易に捉えられるものであった。

 その一方で映画『天気の子』がRADWIMPSに齎したものとは何だったのか。映画公開の前年にリリースされたオリジナルアルバム『ANTI ANTI GENERATION』はアンチテーゼを掲げるだけの世代に対して鋭い批評性を持った作品となり、アルバムのラストを飾る「正解」で示された《僕だけの正解をいざ探しにゆくんだ》というアティテュードは『天気の子』で描かれる帆高と陽菜の選択にも通じるという事に気付いた人も多いだろう。これは新海誠の思想に野田洋次郎が迎合した訳では決してない。映像と音楽だけでは留まらない最深部でのシンクロニシティが『天気の子』という作品を生み出し、RADWIMPSのマインドを不撓不屈なものとしたのではないだろうか。そしてそのマインドを持ってしてコロナ禍でもRADWIMPSは音楽制作を続けており、今年の4月に配信リリースされた新曲「鋼の羽根」は『ANTI ANTI…』や『天気の子』で提示された“自分だけの正解を見つける姿勢”の半歩先が歌われている。

 最後に捕捉しておくが『天気の子』が齎したのは何もメタフィジカルなものばかりではない。強いて挙げるのならオーケストレーションを前作以上に活用した事だ。前作以上に楽器の数を増やし、沢山の楽器でサウンドトラックを表現していくというテーマから始まった『天気の子』の劇伴制作。思えば野田洋次郎はオーケストレーションをやり切ったと『君の名は。』完成後に答えていた。「愛にできることはまだあるかい」での《僕にできることはまだあるかい》という問い掛けと、そこで導かれた結論は、劇中を奔走する帆高の代弁に留まらない。野田洋次郎という1人のミュージシャンの決意そのものだったのだ(やまだ)


(RADWIMPS「愛にできることはまだあるかい」Music Video)